「戦争犯罪者に煉獄はない。地獄に一直線に落ちるだけだ」

 ウクライナ情勢を巡り国連の安全保障理事会が緊急会合を開催していたその最中にはじまったロシアのウクライナ侵攻。ウクライナのキスリツァ国連大使は、ロシアがウクライナに宣戦布告したと表明し、ロシアのネベンジャ国連大使に対して冒頭のように強く言い放った。

厳しい表情で緊急会合に臨むウクライナのキスリツァ国連大使 ©AFLO

 再三にわたる国際社会からの「ストップ」にもかかわらず、ついに起こってしまったこの事態。あまりに強引な侵攻に、世界各国からロシアへの批判が巻き起こっている。

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 ロシアは一体なぜ、このような振る舞いを起こしたのか。軍事評論家で、東京大学先端科学技術研究センター専任講師の小泉悠氏のインタビューの中から、その理由を読み解くヒントとなる、プーチン大統領のあまりに特殊な世界観についてここに再公開する(初出:2019年11月24日 以下、年齢・肩書き等は公開時のまま)。

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ロシアのあまりに特殊な国家観

2019年6月、G20大阪サミットで開かれた米露首脳会談 ©AFLO

〈ロシアの行動原理を理解するためには「彼らの独自のルールブック」を知る必要がある――そう著書に記した小泉氏。まずは、その「あまりに特殊な」国家観について聞いた。〉

――まずプーチン、そしてロシアという国は、いまの世界、そして国際政治の現場をどのように捉えているのでしょうか。

 ソ連が崩壊して、スーパーパワーでなくなってしまったということが、ロシアにとってはわれわれが想像する以上に面白くないことでもあったし、もっと言うと脅威でもあったと思います。

 ロシアの世界観は、パワーに大きく依存しています。世の中や国際政治を動かすパワーと一口に言っても様々ですが、ロシアは剥き出しの「軍事力」を極端に強調するんです。「強制的に相手の行動を変えるようなパワー」こそが、国際政治の主要因だと考えているのです。

 ロシアがこの価値観で自国をみると、実体以上に自分たちのパワーがものすごく弱くなってしまったようにみえる。「外国にいいようにされてしまう」と理解していると思います。

――そのような「特殊な世界観」でみると、他国はどう見えているのでしょうか。

 力が弱い国、特に自前で安全保障が全うできないような国は、一人前の国家ではないと見なします。「半主権国家に過ぎない」みたいな言い方をするわけです。「主権」はどの国も確かに持っているんだけど、その主権をフルスペックで発揮できるかどうかは軍事力による、という世界観です。たとえば、プーチンに言わせれば、アメリカに守られているドイツは主権国家ではないとなる。

 だからロシアにとって、国連常任理事国プラス数カ国ぐらいしか主権国家と呼べる国はないという世界観なんですよね。

 ロシア自身、90年代はソ連崩壊でもう主権国家ではなくなってしまうかもしれないという恐れを抱いたと思うんです。そこから盛り返し、2000年代の最初の8年間で、年平均7パーセントの経済成長をしてほぼGDPが倍になった。その頃、「ロシアはソ連崩壊後の混乱は抜け出した」と言い始めます。軍事力を支える経済力が増して、外国に支配されるかもしれないという危機も脱し、確固たる主権国家としての地位を取り戻したという宣言だったわけです。