1ページ目から読む
4/5ページ目

――さまざまな世界観が共存することなど出来るのでしょうか?

 共存できていないんだけれども、併存はしている。その世界観同士がガチガチとぶつかっている時代にみえます。

 冷戦が終わった後に、サミュエル・ハンティントンが『文明の衝突』を書いて、「これからは文明の地金みたいなものが決定的な役割を果たす。だから文明単位のぶつかり合いになるんだ」というようなことを言っていましたが、私もそう思います。

ADVERTISEMENT

 ロシアも中国も、形の上では一応は「民主主義ですよ」と言うんですが、彼らの言う民主主義のやり方は全然違う。たとえば、プーチンのアドバイザーを務めたスルコフという人が「主権民主主義」という概念を持ち出しました。どういうことかというと、「みんな意見は自由に述べてよろしい。政府を批判するのも自由だ」。しかし、「一回リーダーが決めたことに逆らうのは許さん」と(笑)。

当初は「ずっと自由だった」ロシアの方針が変わった理由

――ロシアの印象そのままですね。

 いまやロシアはそうした抑圧的なイメージを持たれますが、当初はプーチンもここまでやろうとはしていませんでした。もちろん彼はKGB出身で強面なので、最初からやることはやったけど、ロシアメディアも10年前はずっと自由でした。特にインターネットなんて完全に野放しでしたよ。

――それがどうして変わったんでしょう?

 時間とともに、国民に体制に対する不満が溜まってきたからでしょうね。反体制運動なども起こってくるし、経済だって駄目になって。普通に考えると、国民の不満の根本的な原因を直さなければいけないわけですが……。

 プーチンは、やはり対策がKGB的なんです。「国民の不満が高まったら、監視や取り締まりを強化する」という方向に、どうしても行ってしまう。これは彼のキャリアによってビルトインされた思考の癖ですし、彼を支えている政策エリートたちもKGB出身者が多いので、どうしてもそういう解決策ばかり出てきてしまう。

――その結果、他の国とは世界観が分断された国になってしまったのですね。

 その分断線にしたがって、例えば、ネット環境も違ってきた。たとえば、中国のインターネットは、他の国とは別の世界になりつつありますよね。Googleも使えないし、TwitterにもFacebookにもつなげない。代わりに、中国の政府の監視下にある同じようなアプリなら使えます。インターネットというテクノロジーは同じものを使っているにもかかわらずです。

 最近、ロシアも徐々にそうなりつつあって、インターネットの監視が非常に厳しくなってきている。ロシア政府は、「ルー・ネット」という有事にグローバルなインターネットから切り離してロシアだけのインターネット空間を作れないかと検討しています。そういう分断の時代を迎えているイメージを僕は持っているんです。