ロシアが得意とする“柔術外交”とは?
〈2014年にはクリミア半島を強引に併合し、中国とも合同軍事演習を続けるロシア。アメリカ大統領選をめぐって、「ロシアゲート」という言葉が聞かれる現状で、ロシアという国は至るところで暗躍する「陰謀国家」のような印象を受ける。ところが、それは一面的な見方でしかないと小泉氏は語る。キーワードは「柔術」だ。〉
――ロシアは、自国のイメージが悪化することを恐れないのでしょうか?
そもそもロシアは、自国のイメージを良くする必要を感じているのかどうか、ということです。
経済力で劣るロシアは、平時の体力が弱い。世の中が平和だと、ロシアという国はあまり目立たない。世の中が乱れだすと、途端にロシアという国は輝きを放つんです。
ロシアにしてみると、普通に「いい国ですね」と言われて好かれても埋没してしまう。他方、怖がらせる能力は突出して高いわけですから、怖がられることで、その存在感は上げられるわけです。
ある意味で“炎上マーケティング”、炎上型ユーチューバーみたいなものです。忘れられているよりはずっとマシ。人目に触れて存在感さえ高まっていれば、その注目度は何かしら価値に変換できる――という考え方があると思います。
アメリカなど西側の国は、「秩序」から恩恵を受ける側なので、秩序を維持しようと介入をする。ところがロシアは、秩序を維持しても別に儲からない。だから、軍事介入にしても、秩序に関心がないので、混乱の中から何かロシアにとって役に立つものを掠め取るための介入なんです。
アメリカの外交が戦略ゲームである「チェス」に喩えられるとしたら、プーチンがやっているのは「柔道」。ロシアは主導権を握る力はないので、相手の力を利用して、タイミングを合わせて大技を狙っている。どんな技が決まるかは誰にも予測できない。相手の出方や状況によって、仕掛ける技は一本背負いかもしれないし、腕ひしぎかもしれないのです。
――プーチンは緻密な戦略家という評価もありますが、イメージが変わります。
プーチンは戦略家というよりも戦術家であると思う。ある瞬間に物事に対応する力はすごい。ただ、何か中長期のプランがあるのかというと、あまりないのではないか。「大国であるロシア」「旧ソ連諸国を統合するロシア」という自己意識はあるけど、それを実現する具体的なプランや戦略は乏しい。
クリミアの侵攻作戦をみても、あれは教科書に載るような「戦術」のお手本です。けれど、結果的にそれでロシアは何を背負い込んだかというと、経済制裁やウクライナ人の反発でした。我々から見ると、結局はマイナスに働いているんじゃないかという気がします。