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プーチンは「頭の中が100年単位で古い。数世紀遅れている」

――歴史の教科書で見るような事件に思えました。

 まさに時代錯誤なんですよ。要するに、「古臭い」んですよね。

 ロシアの「パワーこそすべて」みたいな世界観とか、「君らは僕らの勢力圏内にいるんだから、お前らには完全な主権はない」という考え方は、18世紀、19世紀なら普通の考え方だった。プーチンが18世紀のロシア帝国の皇帝だったら名君です。でも、それを21世紀にやってしまったことが大問題なんです。

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 ですから、僕のプーチンのイメージは、「天才戦略家」だとか、「悪のリーダー」だとかいうよりも、「古い男」。頭の中が100年単位で古い。数世紀遅れているというイメージなんです。

――プーチンには、なぜそのような時代遅れの価値観が染みついてしまったのでしょうか?

 プーチンを支えるロシアの外交や安全保障、諜報機関、エリートたちの世界観がもともと古いんですよね。

 なんでロシアだけが?と思うかもしれませんが、例えば中国も近いんじゃないかと思います。彼らの場合は、経済も成長しているし、イノベーションも起きているから、ロシアよりもう少し頭が柔らかいかもしれませんが。でも、僕は中国の行動にはロシアとかなり近いものを感じます。

――たしかにロシアは、中国と繋がりを深めていますね。

 中露が気が合っているのは、互いに「権威主義体制(編集部注:一部のエリートによる非民主的な体制)」が必要だと思っている国だからかなと思っています。権威主義はいずれ倒されて民主化されていく――という認識が西側の国にはあるじゃないですか。だから、中国やロシアについても「まだ民主化していない」という言い方をする。

 ところが中国やロシアからしてみると、「いつか民主化する」なんて思ってもらったら困るんですよ。巨大な国家を統治するためにはこういう政体しかないのであって、いずれ民主化するというビジョンを持たれたら困る――と思っているんです。

 ロシアなんて、「民主化をしろ」とか、「ジャーナリストを殺害してけしからん」とか言われると、「またそうやって西側は情報戦を仕掛けてきている。民主化の名の下にわれわれの国体を覆す気だな」って認識する。たぶん、これは中国共産党も同じでしょう。

――彼らから見ると存在そのものを否定されているように見えてしまうわけですね。

 そう考えると、2010年代ってすごいんですよ。ヨーロッパは「私らポストモダンで安全で豊かな社会に生きています」みたいな顔をしていますけれども、一方では、まだナポレオン戦争の頃のような価値観を持ったロシアみたいな国がいる。

 さらには、ロシアがクリミアを取って「18世紀かよ」とか言われていた2014年に、イスラム国が登場して16世紀みたいな「カリフ制」の再開を宣言する。針をギュッと巻き戻った時計がいっぱい出現したんですね。