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2年ぶりの有観客、2位巨人の「2.8倍」の来場者…ホークスキャンプを考察した

文春野球コラム ウィンターリーグ2022

2022/02/26
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野球以外の楽しみを創出

 極端かもしれないが、ホークスのキャンプは、球場内でなくても、またはかなりライト層なホークスファン(野球ファン、もしくは野球に興味がなくても)でも楽しめる仕組みづくりが、ずいぶん前から出来上がっている。

 公園内の「ホークスビレッジ」には地鶏炭火焼や肉巻おにぎりなどの宮崎グルメ、キャンプ限定メニューを堪能できたり、宮崎土産を買えたりする屋台が25店舗もそろっていたり、温泉の湯を使用した足湯があったり、週末限定でライブなどが行われるステージがあったりする。

 そのそれぞれで感染防止対策が施されており、コロナ禍以前と全く同じ形態ではないにしろ、来場者に喜んでもらうための施策がなされていた。

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宮崎グルメも堪能できるホークスビレッジ ©田尻耕太郎

 そして、今春のキャンプで好評を博したのが、藤本博史新監督をモチーフにしたふわふわのバルーン遊具だ。藤本監督も「可愛いじゃないですか。ちょっと可愛すぎるかな。でも、怖かったら子どもが中に入ってくれないでしょ。PayPayドームにも持って帰ってもらいたいですね」とご満悦だった。

 笑顔で行列に並ぶ親子連れの横を通ると、「ママ、ホークスの監督ってこんな顔なんだね」と話す声が聞こえた。悲しいかな藤本監督は、ビッグボスに比べれば随分地味なのが現実だ。キャンプに来る“ライト層”の中には藤本監督をほとんど知らない人も、それなりの数がいる。だからこそ、球団広報担当者も「我々も藤本新監督のホークスを、多くの人に知ってもらいたいと思ってPRを考えているんです」と力を入れている。

これが噂の「藤本バルーン」 ©田尻耕太郎

 キャンプ序盤には「藤本監督なりきり付けひげシール」なるものが、来場者に無料配布された。サインペンでちょっと雑に描かれた“ひげ”の形をしたシールでマスクの上に貼って楽しむものだが、じつはこのひげは藤本監督が直筆したものだった。「ひげを描いてくださいって言うから、おかしなこと言うなと思いながらサラサラと。ちゃんと説明してくれれば丁寧に書いたのに(笑)」と照れくさそうだった。

 球団関係者は、そんな藤本監督に感謝している。

「失礼な言い方をすればイジっているわけじゃないですか。だけど我々の提案に嫌がることなく、受け入れてくれる。いつも『それでファンが喜んでくれるなら』と」

 今後、PayPayドームに戻ってからも、藤本監督にまつわるグッズやグルメメニューなどがお目見えするはずだ。乞うご期待である。

レアグッズ?「藤本監督なりきり付けひげシール」 ©田尻耕太郎

ホークスTVの頑張り

 かねてよりホークスは球団オウンドメディアに力を注いできた。昨年3月には新たに公式動画チャンネル「ホークスTV」を開始させた。

 ただ、あくまで40代男性・スポーツライターが生業の個人的感想としては、正直見るべきコンテンツが皆無だった。選手への恋愛相談、ダンスチーム「ハニーズ」による知恵の輪解き競争……。担当者に意見すると「2軍戦が見られるじゃないですか」と言うので、「いや、パ・リーグTVに加入してますし、あっちは1軍戦も見られますから」と言葉を返すと、会話がそれ以上続かなかった。

 そんなホークスTVだったが、昨年12月1日付で球団内にオウンドメディア推進部が新設された流れも受けて、この春季キャンプでは力の入れ方がまるで変わった。公式中継映像に加えて、ホークスTV専用カメラが別に2台。計3つのアングルを自由に選べ、しかもどこよりも深い密着度でチームの様子を伝えてくれるようになった。

 元来は「コロナ禍でキャンプ地に来られないファンのために」との意味合いが強かったが、この充実したコンテンツを目の当たりにすれば、やはり球場へ足を運びたくなるのが野球好きの性だ。もちろん様々な制限や条件がある中でのキャンプ見学だったとはいえ、そうやって来場したファンも少なくなかっただろう。

 また、ホークスTVでは筑後キャンプも生配信された。

 ホークスでは今季から三軍拡張に伴い、ファーム本拠地の筑後でキャンプを行うC組が新たに誕生した。主に育成枠若手や高卒ルーキーらで構成されるが、ドラフト1位新人の風間球打投手はそのC組で日々練習を積んでいた。さらに、1月の自主トレ期間中に新型コロナウイルス陽性判定を受けた選手たちが、隔離や待機期間中に落ちた体力を戻すために、キャンプイン当初は筑後C組で始動していた。柳田悠岐外野手や松田宣浩内野手、リチャード内野手、今オフ12球団唯一のFA移籍選手の又吉克樹投手ら錚々たる顔ぶれが一時揃っていたというわけだ。

「筑後キャンプの配信もかなり好評でした。配信を見て、スタンドにお客さんが入れることが分かって来場された方も多かったようです」

 筑後C組キャンプについても、2月1日~20日までの来場者の総計を調べると、1万7310人を数えた。これはジャイアンツに次ぐ全体3位に相当する。まさに驚異的な数字だった。

 最後に、コロナ禍において「来場者数」をテーマにしたコラムを不快に感じた方もいるかもしれない。承知の上だし、その意見も十分に汲み取らなければならないとは考えている。

 だけど、感染対策を十分に施したうえで、有観客キャンプを行ったプロ野球の選択も間違いと断定することはできない。その中においてホークスの動員数が断トツだったという事実に基づき、現地でこの目で見た立場として執筆させてもらった。

 賛否両論。そのどちらを唱える人たちも、願いは一つだ。こんな窮屈な思いとは早くおさらばしたいのだ。

 来年の春季キャンプでは、かつての日常が戻っていてほしい。来年と言わず、できれば一日も早く。今季中だって満員のスタンドであの大歓声の中で野球を観たい。

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