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犯人の逃走経路を推測し、携帯電話が発見される

 現場には争った形跡も店内を物色した跡もない。当日の売上は手つかずのまま残っていた。奪われたのは店長の携帯のみ。凶器は店にあった刃渡り16センチの包丁。血がついたまま、店の裏の畑に捨ててあった。裏口には運動靴が揃えて置かれ、血のついた裸足の足跡が店の外まで続いていたという。

「犯人は一刻も早く逃げたいから、暗闇の方に行く。裸足だから、人目につけば不審者になる。住宅がある方にはいかないし、そんな所にいつまでもいない。するとどこでタクシーを拾い、どこの駅から電車に乗るのかを推測する。奪った携帯を捨てるならどこに捨てるのか。人には習性があるからね。おそらくタクシーを拾える大通りに出る途中だろう」

 元刑事Bは犯人の逃走経路をそう推測した。「捜査は筋道を立てて、その通りにやるのみ」と語る彼の予測通りの場所で携帯電話は発見された。

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©iStock.com

密入国者の男が被疑者に

 重要参考人としてあがったのは、以前、店で働いていた20歳過ぎの中国人男性だった。数カ月働いていたが態度が横柄で、注意した店長と何度も言い争いになり、辞めさせられていた。店長に恨みを持っている可能性が考えられたが、“金ちゃん”というニックネーム以外、誰も男の本名を知らなかった。捜査員らは、この男の情報を集めることから始める。

「誰に聞いても通称しかわからない。肉体的特徴や顔の印象はわかったが、どこのどいつか判明しない。店には男に関する書類も資料も何一つない。ということは、きちんとした入国手続きを踏んでいないのではないか」

 元刑事Aはそう考えた。

 この推理は的中する。男は密入国者だったのだ。それもコンテナ船で中国人を運んでいた密入国団の一員だった。事件後、中国にいる父親に「大変なことをしてしまった」と電話していたという情報も入り、この男が被疑者だと思われた。

 密入国とわかったが、不法滞在で男の捜査令状を取るには「日本国として容疑者の本名や生年月日を確認する必要があった」と元刑事Bは話す。どこの誰ともわからない人間の捜査令状は取れない。まして密入国者では、パスポートやビザなど入国管理局が管理する書類、国家間における公式な書類がない。身元確認をどうするか。