数多くの殺人事件を捜査してきた刑事たちでさえ、思い出したくないという、一面が真っ赤な血の海になった現場――。東久留米市ラーメン店殺人事件を警視庁・組織犯罪対策部、通称「組対」の元刑事たちが振り返る。
被疑者は横浜のどこかにいる
探し出すべき被疑者が誰かわかった。次に必要なのは被疑者の所在だった。捜査員は、都内や都内近郊に住む中国人らに情報提供を依頼した。
「外国人犯罪は情報が大事」だと、捜査員らは異口同音に言う。外国人犯罪の場合、被害者や容疑者と同じ国、同じ地方の出身者から得られる情報は有力なものが多い。被害者が日本人の場合と外国人の場合とでは、聞き込みの手法も異なるのだ。
元刑事Aは「日本人によく似た容貌の中国人容疑者を探し出そうと聞き込みを続けるよりも、中国人の情報ネットワークが男を探し出す可能性の方が高い」と言う。実際、男の所在はそのネットワークから判明した。
「人のいい中国人のお爺さんが、所有していた横浜駅近くのビルの1室に居候させていたんだ。やつのことを可哀想だと思っていたらしい。その好意に付け込んでいたんだな。被疑者にとって土地勘があるのは横浜だ。やつは横浜のどこかにいる」
元刑事Aらはそうにらんだ。
「従業員の性」
容疑者の部屋に家宅捜査に入った元刑事Cも、「密入国者は用がなければ外を出歩かない。家がある横浜以外、他の場所に土地勘はない」と考えていた。被疑者の部屋で、元刑事Cは迷わずある物を探す。
「黄色のスリッパ、便所スリッパだよ」
それは、最近見ることがなくなったが、トイレによく置いてあった黄色いスリッパだった。
「被疑者が大通りでタクシーを拾い、最寄り駅で降りたことはわかっていた。他に土地勘がないなら横浜に戻るしかない。そこで横浜駅や駅周辺に設置している防犯カメラを徹底的に調べた。駅のカメラにはっきり姿が映っていた。やつは朝6時前、先頭をきってホームから走ってきた。よほど早く帰りたかったんだろう。両膝下に浴びた返り血がはっきり映っていた。裸足かと思ったが、足元を見るとトイレのスリッパを履いていた」
なぜ容疑者は、黄色のスリッパをはいていたのか。元刑事Cは「従業員の性だ」と説明する。