「コップにストローが差したままで、やつの唾液が付いていた。この唾液をDNA鑑定したところ、凶器となった包丁の取っ手に残されていた犯人のDNAと一致した。間違いなくやつが犯人だ。これで殺人で逮捕状が請求できる。現場の捜査員たちの頑張りだ」と元刑事Cは振り返る。
犯行の動機は恨み
被疑者は漫画喫茶から逃亡した1週間後、自ら東京入管横浜支局に「密入国した」と出頭。入国管理法違反の現行犯で逮捕された。犯人は中国籍の兪欽平(ユキンペイ)容疑者(24)。漫画喫茶で警察に見つかり、もう店には入れないと山下公園で野宿をしていたが、水はあるが食う物がなく、このままでは死ぬと思い、逃げるのを諦め、自分から出頭したのだ。
入管に出頭すれば、国に帰れると思っていたらしい。入管から組対に連絡があり、殺人容疑で逮捕された。
「犯行の動機は恨みだ」。被疑者からそう聞いたと元刑事Aは話す。
「『あいつのためになんで俺はこんなに苦労するのか。あいつのために、おれはこんな境遇になったんだ』やつはそう思って、夜中に押し掛けて、裏口から侵入。売上があるだろうと、それを探そうとして店長に見つかり、『お金を借りにきた、また働きたい』と言い訳したが、断られて殺したんだ。携帯を盗んだのは、店の情報や顧客情報がほしかったからと言ったが、言い訳だろう」
中国人犯罪に多くみられる傾向
よく犯人の習性として現場に舞い戻ると言われるが、この時、被疑者は戻っていない。
「おそらく最初から殺す気はなかったんだろう。店長に見つからなければ、窃盗だけで終わっていただろう。靴を脱いでるしね。だが殺す時は相手が二度と立ち上がってこないよう、自分が報復されないよう徹底的にやる。これは中国人犯罪に多くみられる傾向だ。だから殺し方で、日本人か中国人かだいたいわかった」
と元刑事Aは言う。
被疑者もそうだったが、中国人犯罪者は自分のやったことを認めない傾向があるという。最終的に認めることになったとしても、あくまでも悪いのは自分ではない、相手だと主張する。
兪被告の動機は、裁判が進むにつれ明らかになった。解雇された恨みと生活する金や遊ぶ金欲しさに、店内に侵入したところ、被害者に発見されたため殺害に及んだという。2009年3月、東京地裁八王子支部によって出された判決は懲役18年だった。