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未だに残る性別役割分業の意識

 晴れて東大卒男性と結婚したあられだが、今度は結婚生活に苦戦していた。その理由の一つとして、夫が「有名中高一貫校から東大、大企業と絵に描いたようなエリートで、挫折を知らない」ことが影響していると捉えていた。

 あられは結婚後、家事の大部分を担っているとブログに記している。炊事は100%負担。夫に料理を勧めたところ、「マクロ経済を学ぶといいよ」と返されたという。「農家さんが漁業もやったら非効率でしょ。一つの産業に特化すべきだということがわかると思うよ」と。つまり夫婦のうち、料理の得意なあられが一手に担うべきだ、という主張だ。

 東大学生生活実態調査を遡ると、2002年の調査に、性やジェンダー観に関する項目がある。その中に、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という性別役割分業をどう思うかという質問がある。「賛成」「どちらかといえば賛成」と答えた割合は、男子学生で約4割(39.8%)。女子学生の一割強(11.8%)をはるかに上回っていた。

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 当時の回答者は今、アラフォー世代になっている。仕事を続けてほしい、と言うあられの夫も、一見理解があるようでいて「ただし家庭を守った上で」と思っているのかもしれない。

 このインタビューには、続きがある。

 後日、あられがこんなメールをくれたのだ。

「私にとっては、東大に根強く残る男尊女卑の思想がある種の壁だったのかな、と思います」

 インタビューの最中、「自分には女性としての魅力も自信もありません」と言い切る彼女に、なぜそう思うのかと尋ねていた。その答えが、メールの言葉だった。さらに、非公開設定だったブログを公開してくれた。なぜ自信が持てないかを、自分で掘り下げたものだった。

 数少ない“東大女子お断り”でないテニスサークルに入ったあられは、そこで受けた衝撃をこう綴っていた。

「宴席において、女性たちは、まず年齢によって格付けされる。最上層にいるのは、“一女=イチジョ”と呼ばれるもっとも若い大学1年生。一女はテニスの強い男性選手の周りに配置される。慣れない手つきでお酌をし、コールをかける。一女『飲んで、飲んで、飲んでー♪ お・ね・が・い♡』。手を組んで可愛らしくお願いし、選手に気持ち良くお酒を飲んでいただく。さながらキャバクラである」

 あられは屈辱を覚え、お酌を避けるかわりに、自虐ネタで笑わせるキャラクターを演じた。その頃から、女性としての自分を表出することに対して苦手意識が生じたという。

 同じ東大生でも、サークルの中では、女子は男子にかしずくようになっていた。

東大女子という生き方 (文春新書)

秋山 千佳

文藝春秋

2022年3月18日 発売