加害者からの暴力・恐怖にさらされ続けたDV被害者のなかには、フラッシュバック、うつ、記憶障害、対人恐怖、体調不良といった「DV後遺症」に悩まされる人が数多くいる。

 自身もDV家庭に育ったノンフィクションライターの林美保子氏は、著書『DV後遺症に苦しむ母と子どもたち』(さくら舎)で、DV被害経験者たちの体験談をまとめ、複雑なDV問題の実態に迫った。ここでは、同書の一部を抜粋し、太田陽菜さん(30代・仮名/結婚生活5年、その後11年)が負ったDV後遺症の症状について紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)

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「おまえなんか、つねに妊娠していたらいい」

 長男に続き、2年後には長女、その2年後には二女も誕生する。その頃から、夫が朝まで帰ってこない日が何回か続いた。

「これは、何かあるやろうなと思いました」

 ある日、夫がテーブルに置きっぱなしにしていたスマホの着信音が鳴り、LINEが表示された。女性からだった。

「あなたのLINEに『次、いつ会えるの。早く会いたい』って、女の子からきていたで」

 そう言ったとたん、殴られた。

「お前には関係ないやろ!」

 陽菜さんは姑に相談した。ただし、暴力のことは伏せた。

「浮気してはるみたいだし、帰ってきいへんし、お金もちゃんと入れるわけでもなく生活できへんし、まだ悩んでいるところですけれども別れることも考えているので頭に入れておいてください」

 姑は、「ちゃんと反省させるから、一緒にいてあげてほしい」と懇願する。

「1回目ということもあって、すぐには結論を出さへん約束をして、仲良くしようと頑張っていました」

 半年後、4人目の妊娠が判明する。

「彼は自分が浮気しているから、私も浮気ができるやろと、どこかで思っているみたいで、『つねにお腹に赤ちゃんを入れておけば浮気なんかできへん』と、全然避妊してくれないんです」

 陽菜さんが、「ほかの人の子どもができるのが嫌だったら、私の卵管を縛ったらいい」と話すと、「そんなん、だれとでもやりたい放題やん。おまえなんか、つねに妊娠していたらいい」と言い放ったという。ちなみに産婦人科では、多産のケースはDVを疑うこともあるそうだ。もちろん、妻が望んでいれば問題ないのだが、DVカップルは避妊について話し合えない関係であるため、子だくさんであることが珍しくないからだ。

 そのくせ、4人目の妊娠がわかると、「もう俺はこの給料で4人の面倒は見られるわけがない。ちょっと考えるわ」と、勝手なことを言い出す。

 そんなとき、また同じ浮気相手と続いていることが発覚する。

「アホやから、またお風呂に入っているときにスマホを置きっぱなしにしていたのです」

 また、喧嘩が始まった。

「まだ続いているの? やめてと言ったよね。子どもをどうするつもりなの? お金もちゃんと入れてへんのに、相手にばかり使っていて、私はどうすればいいの? 妊娠させられて働きにも行かへんし……!」

 それから10日間、陽菜さんはずっとボコボコ状態で殴られつづけた。

「離婚はせいへんと約束するまで、俺はいくらでも殴る!」