文春オンライン

「つねにお腹に赤ちゃんを入れておけば浮気なんかできへん」夫からの暴力にさらされ続けた女性を悩ませる“DV後遺症”のリアル

『DV後遺症に苦しむ母と子どもたち』より #1

2022/03/17

 男性への恐怖は、5~6年たった頃から少しずつ薄れていった。

「その後は、何センチぐらいの距離だったらいけるかな、みたいな感じにだんだんなってきて、普通に男性が横で作業していても大丈夫になったのは最近になってからですね」

「あんたと子どもと、死んでくれたらいいのに」

 2020年、新しい出会いがあった。以前の仕事仲間の友人と交際することになったのだ。実際、陽菜さんは4人も子どもがいるようにはとても見えない。一見すると、若い独身女性のようで、男性から見ると十分魅力的にちがいない。

ADVERTISEMENT

「こんな人がいるんやなとびっくりするほど、穏やかでやさしい人でした。ちょうど離婚してから10年という節目だったこともあって、自分の中でひとつの区切りにしようと思っていたときに出会ったんです」

 秋に妊娠が判明した。4人のシングルマザーであるだけでも大変なのだから、堕ろそうとは思わなかったのだろうか。

「彼が、『産んでほしい』と言ってはったんで、『じゃあ、産む』ということになったんです。『子どもたちは10年もすれば成人するから、それぐらいに結婚できたらいい』みたいな感じでした」

 しかし、彼の家族は大反対だった。

「おとうさんが事業をしてはって、彼は跡継ぎなんです。『子どもを堕ろしてくれへんと困る』とかいろいろ言われました。特に、2人のおねえちゃんが強烈で、『あんたと子どもと、死んでくれたらいいのに』とまで言われました」

 結局、別れることになった。

「やさしいから、家族も切れへんという感じでしたね」

 4人も子どものいる女性が相手では反対する気持ちもわからないではないが、元DV夫の無責任さが、まだ若い陽菜さんの人生に影響を与えてしまったと思うと切ない気持ちにもなる。そんな思いを押し隠しながら、「でも、新しい出会いができるようになったということですよね?」と陽菜さんに振ると、「そうですね」という明るい返事が戻ってきた。胸の内では口にできない思いもあるのかもしれないが、話を聞いていくなかで、陽菜さんには強い意志とたくましさが備わっているように感じた。

【続きを読む】「やめて! もうやめて!」人もうらやむ裕福な家族が一転“地獄の暴力家庭”に…父から母へのDVを見て育った子が負った“面前DV”による深い傷

DV後遺症に苦しむ母と子どもたち

林美保子

さくら舎

2022年2月4日 発売

「つねにお腹に赤ちゃんを入れておけば浮気なんかできへん」夫からの暴力にさらされ続けた女性を悩ませる“DV後遺症”のリアル

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー

関連記事