陽菜さんは2回目も同じ女性というのが耐えられなかった。離婚を決意して、相手の女性にも連絡をとった。
「そんなに好きだったら、2人で一緒になったらいいんじゃないですか」
てっきり、「別れてほしい」と言われるとばかり思っていた女性はあわてた。
「私はそんなつもりで付き合っていたんじゃないです。ただ、ちょっと気の迷いで……」
「でも、こちらの家庭を壊して、子どもたちのおとうさんを取って遊んでいたんでしょう。私はもう我慢できひんから。あとは2人で話してください。もう、どちらとも関わりたくない」
その話を女性から聞いた夫は、帰宅するなり、「なんで、あいつに電話をしたんだ!」と逆上した。
子どもたちに向けられた暴言
「パパ、おかえり」と寄ってきた当時5歳だった長男を、「お前は黙っていろ!」と払いのけ、叩いた。陽菜さんが抱きかかえていた1歳にも満たない二女を取り上げて、「こんなん、置いとけ!」と、ソファにポーンと投げ置いた。それを見ていた2歳の長女がびっくりしてギャーギャー泣き出すと、「うるさいからお前はあっちに行ってろ!」と手を引っ張って、真っ暗な部屋に押し込めた。長男も怖がってその部屋に逃げ込むと、陽菜さんは二女をソファから抱き上げて同じ部屋に連れていった。
子どもが部屋から出ていくと、夫はやりたい放題、手を上げ放題となった。苛立ちはいつまでもおさまらず、ひと晩中暴力が続いた。
明け方になって疲れたのか、夫が急にパタッと寝入った。陽菜さんはその隙に父親に電話をして、車で迎えに来てもらい、泣き疲れて寝ていた子どもたちを連れて実家に逃げた。
それまで、暴力のことも浮気のことも隠していた。
「両親には、夫の悪い印象を植えつけたくなかったのです」
友だちにも一切話したことはなかった。
「『かわいそう』というような目線で見られるのが嫌でしたから」
陽菜さんは、父に初めていままでのことを話した。
「全然気づいてあげられなくてごめんな」と、父は嚙みしめるように言った。
その後、陽菜さんが姑に連絡をして、DVがあったことを告げて離婚をしたい旨を伝えると、「あの子が手を上げるなんて」と信じようとしなかった。
「なにしろ息子がいちばん、みたいな人でしたので。『あなたがそんなことを言うのは、慰謝料を取ろうとしているからじゃないの?』とまで言われました」
「男尊女卑的な家風であったかどうかはわからないのですけれども、彼が特別扱いをされて育ったことは確かです。いちばん上のおにいさんが小さいときに病気で亡くなっているので、お姑さんの男の子に対する執着が強いというか。
おにいちゃんもおねえちゃんもひとまわりくらい歳が離れているのでひとりっ子みたいな感じでかわいがられてきて、自分中心に見てもらえる。だからよけいに、自分ではなく子ども中心の生活にストレスを感じていたのかもしれません」
数日後、夫の実家で本人同士、陽菜さんの父、姑の4人で話し合いが持たれた。息子の暴力を信じようとしなかった姑も、陽菜さんがアザを見せると反論できなくなった。