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 姑は陽菜さんが長男を産んだ当初から、長男を跡取りにしたいと語っていた。

「娘も歳だから子どもができるかわからない。息子のところも不妊治療をしていてなかなか子どもができない。だから、初孫は大事に育てたいし、なんでもさせてあげたい」

 だから、離婚の話が出たときにも、「いちばん上の孫だけは置いていってほしい」という姑からの申し出があった。

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 話し合いには姑のたっての希望で、子どもたちも連れていった。母親の前では、夫もさすがに子どもに手を上げることはないと思ったからだ。しかし、子どもたちは、「パパが怖いから、パパのいる部屋には行きたくない」と言って、リビングの隣にあった姑の部屋に逃げ込んでしまった。

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「家出をする前に叩かれたり、押し込められたりしたのがよほど怖かったみたいで、『もう、いやや』と言って……」

 姑は、まさか子どもにまで手を上げるとは信じがたかったようだが、この様子を見て、認めざるをえなかった。

「躾のために手で叩いたり、お尻を叩いたりということはしないほうがいいけれども、どこの家でも多少はあると思います。それは仕方ないと思うけれど、彼のやっていることは躾でも何でもなく、自分の感情で手を上げるというのはちょっと違うと思うから、そういう人とは一緒に子育てをするのは怖いです」と、陽菜さんは姑に話した。

 金銭的な話し合いもおこなわれた。じつは、結婚した当初、彼は大学生だったため、毎月10万円の生活費を陽菜さんの父が用立てていたのだ。離婚原因が暴力と浮気だったため、父は怒り心頭で、「ちゃんと返すように」と詰め寄った。いままで家賃と光熱費で10万円強を支払ってきているので、毎月それくらいは返せるだろうということになった。

 こうして、陽菜さんは5年間の結婚生活に終止符を打った。4人目となる二男がまだお腹にいる状態での離婚だった。

離婚後、男性がそばにいるだけで恐怖に

 夫の暴力にさらされたダメージが、陽菜さんにも子どもたちにもあらわれた。

 子どもたちは夜泣きがひどかった。離婚して1~2年は、怖かったことを思い出して泣くことが多かった。また、父親から怒鳴られながら暗い部屋に押し込められたことがトラウマになっていて、「暗い部屋は怖い」と、電気を消した部屋では寝られなくなった。

 年上の男性を怖がり、接し方がわからないようでもあった。

「長男も長女も、小学校の先生が男性だと身構えてしまって、近寄っていけないんですね。慣れるのにとても時間がかかりました」

 子どもたちが父親を恋しがることは一切なかった。

「上の2人はしっかり覚えていて、『いい思い出は何もない』と言っています」

 陽菜さんのトラウマはもっと根深かった。

「テレビで暴力シーンを見たときに、パッと昔のシーンがよみがえるときがあります。彼に殴られる夢もよく見ました。そんなときには、ハッと目が覚めます。10年たったいまでも、ときどきあります」