ビタミンやミネラルなど、日頃不足しがちな栄養素を手軽に摂れるため、サプリメントを利用する人は多く見られます。  

 薬剤や特定の栄養成分の服用で行う疾病予防を、専門用語で「化学予防」と呼びます。がん予防を目的にサプリメントを使うのは、まさに化学予防ということになります。しかしサプリメントも、摂取方法を誤ると意外な落とし穴があるようです。  

 冒頭でも触れましたが、1980年代、5年から10年という長期間にわたって国際的かつ大規模ながんに関する化学予防試験が行われ、非常に興味深い結果が出ています。世界中の試験対象地域で、それぞれ2万~3万人のボランティアを募り、特定の成分の入ったサプリメントを飲んでもらい、その後のがんの発生状況を調べたものです。  

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 緑黄色野菜に含まれるβ-カロテンががん予防に役立つことは先にお伝えしました。この試験でも、たとえば中国での試験では、β-カロテン、セレニウム、ビタミンEを投与したグループは、投与しなかったグループに比べて21パーセント胃がんの発生率を低下させることがわかりました。  

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 しかし、これをもって「サプリメントにがん予防効果がある」と考えるのは早計です。なぜなら、この中国の住民たちは、他のエリアの住民より元々の血中のβ-カロテン濃度が低いという事情があったからです。β-カロテンを投与したことで血中濃度が「低い」から「やや高い」に変化しましたが、言い換えれば、「元々がんのリスクが高かった」ということになります。  

がん予防のための「サプリメント大量摂取」はメリットなし

 その証拠に、中国以外の試験ではこれらのサプリメントを投与したことによるがん予防効果は見られず、逆に喫煙者が高用量のβ-カロテンを摂取すると、肺がんのリスクを20~30パーセントも上昇させることがわかっています。  

 この試験とは別に、アメリカで非喫煙者の医師を対象としたβ-カロテンとがんとの関係を見る調査が行われたこともあります。この調査でも、10年以上β-カロテンを飲み続けましたが、がんの予防を裏付ける結果は出ませんでした。  

 この調査では、元々の血中β-カロテン濃度の程度によってグループ分けした解析も行われましたが、やはり血中濃度が低い人ほどがんのリスクが高く、「血中濃度が低かった人に補給する」ことでのがん予防効果は認められたものの、「元から高かった人への補給」では、がんのリスクを高める結果が出ています。  

 β-カロテン、ビタミンA、C、E、セレニウムのいずれか、あるいはこれらを組み合わせた抗酸化サプリメントの有効性を検証した68試験の合計23万人のデータを解析した研究が2007年に発表されました。その結果は、ビタミンCとセレニウムについては、死亡リスクには差がありませんでした。ところが、β-カロテン、ビタミンA、ビタミンEについては、4~16パーセントという有意差をもって「死亡リスクが高まる」という結果が出ています。  

 こうしたエビデンスから、その成分が欠乏状態にある一部の人を除き、がん予防のために特定の栄養素をサプリメントで大量に摂取することにメリットはない、と言えるでしょう。サプリメントは、あくまで不足している栄養素を補うもの。摂れば摂るほど健康に良いということはなく、多すぎると害になると考えた方が良さそうです。