日本の冬を代表する食事といえば「鍋料理」。家庭の食卓や忘年会など大勢が集まる席で、日本人にとって最も身近な冬の料理といえるでしょう。しかし、「温かい食事」はよくても、「熱い食事」は要注意です。熱い物を熱い状態で食べると、食道がんを引き起こす危険性が高まるからです。

 日本では年間約2万3千人が食道がんになり、1万2千人ほどが命を落としています。男女比で見ると、男性が女性の5~6倍も多く、特に40歳代後半から急激に増えています。中高年男性は要注意です。

 私たちが行った「科学的根拠に基づく発がん性・がん予防効果の評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究」という取り組みがあります。国内で発表された膨大な数の論文の中から「がん予防」に関連するものを抽出し、エビデンスとしての信頼性や、要因とがんとの関連性を判定基準に沿って評価したものです。

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 この中に「熱い飲食物と食道がん」に関する評価項目があり、結果は科学的根拠として「ほぼ確実」とジャッジされています。

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 ちなみにこの研究における評価は「確実」「ほぼ確実」「可能性あり」「データ不十分」の4段階。熱い飲食物と食道がんの関係性は、上から2つ目の信頼性を得たわけで、十分な注意が必要といえるでしょう。

 食道がんには、食道の内面を覆う粘膜の表面にある上皮からおきる扁平上皮がんと、腺組織の細胞におきる腺がんの2種類がありますが、日本人の食道がんは約9割が扁平上皮がん。そして、この扁平上皮にできる食道がんは、「熱い飲食物」が何らかの関係を持っている可能性が高いのです。

 以前は、奈良県や和歌山県に食道がんが多く、熱い茶粥を食べる習慣に関係していると指摘されていました。また、南米で見られる熱いマテ茶を飲む習慣が、食道がんのリスクになっていることも、世界がん研究基金と米国がん研究協会による評価においては、「ほぼ確実」と判定されています。

 おそらくこうした熱い飲食物が食道の粘膜に損傷を与え、食道がんを引き起こすのだろうと考えることができるのです。

 ちなみに欧米人に多い腺がんは、胃から食道に胃酸が逆流して起きる「逆流性食道炎」が原因であることが多く、背景には高度の肥満が介在しています。

 扁平上皮にできる食道がんは、今のところリスクとして明らかなのは、熱い飲食物以外に喫煙と飲酒があり、これらは日本人においても「確実」と判定されています。喫煙者が飲酒しながら熱い飲食物をとれば、食道がんのリスクは勢揃いです。

 一方、すでに触れたとおり、野菜や果物がリスクを下げるのは、「ほぼ確実」です。言い換えれば、喫煙と飲酒の習慣がない人が食道の扁平上皮がんになる可能性はきわめて低く、あとは熱い食べ物と「野菜・果物不足」に注意すれば安心なのです。

 江戸いろはかるたには「のど元過ぎれば熱さ忘れる」ということわざが残っています。しかし実際には、のど元まで熱かった食べ物は、食道がダメージを負うことで熱さを忘れさせてくれていたのでしょう。

 熱い食べ物は、適度にさまして食べましょう。「熱い」ではなく「温かい」にすることが、がん予防にもつながるのです。