食生活とがんの関係を、エビデンスを元に検証してきたこの企画。最後に取り上げる食材は、日本人にとって最も馴染みがあり、主食としている「お米」です。 

 私たち研究グループは、様々な食材とがんの関係を調べてきました。その中に、1995年と、1998~1999年に全国10の保健所管内に住む45~74歳の男女7万3501人を対象に「米飯摂取と大腸がんの発生率の関連」を調べたコホート研究があります。  

 大腸がんに絞って調べたのは、日本人の米飯の摂取量が近年減少傾向にあり、それに反比例して大腸がんが増加しているからです。言い換えれば、米飯に大腸がんを予防する効果がある可能性があったのです。 

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米の摂取量が多い地域に大腸がんが多い

 その半面、米の摂取量が多い地域に大腸がんが多く、白米は精白の過程で大腸がんに予防的に働く食物繊維が失われることや、食後の血糖上昇の指標であるグリセミックインデックスが高いことなどから、米飯が大腸がんのリスクを上げる可能性も指摘されています。  

 対象となった7万3501人のうち、追跡した2008年までに大腸がんになった1276人(男性777人、女性499人)を米飯の摂取量で4つのグループに分類して検証したところ関連はみられませんでした。つまり、米飯の大腸がんを抑制したり誘発したりする作用を裏付ける結果は得られなかったのです。  

 一方で、米飯には気になる側面もあります。それは、「カドミウムを介した発がんのリスク」です。  

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 カドミウムとはイタイイタイ病の原因にもなった毒性のある重金属。狭い国土に多数の鉱山を持つ日本では、土壌にカドミウムが蓄積しやすく、私たちが食料として摂取する動植物にも一定量含まれています。中でも米はその含有率が他の食材より高く、日本人が経口摂取するカドミウム総量の約4割は米によって取り込まれています。

 私たちは1995年と1998年に約9万人の男女を対象としたアンケート結果に基づき、カドミウムの摂取量とすべてのがんの発生との関連を、2006年まで追跡調査しました。

 調査の対象となった人が口から摂取するカドミウムの量は、一日当たり平均27マイクログラムでした。カドミウムの摂取量に応じて4つの群に分けて調べてみると、がんのリスクとは関連はありませんでした。さらに部位別に調べると、男性の胃と膵臓のがん、女性の腎臓と子宮体部のがんに、摂取量が多いほどリスクが高まる傾向が僅かに見られたものの、やはり有意差といえるものではありませんでした。  

 現状のカドミウム摂取量であれば、がんに対する明らかなリスクはない、という結果が示されたのです。国の安全基準で管理され、流通している米に含まれるカドミウムによって、がんだけでなく、他の健康被害が出ることもないでしょう。  

 とはいえ、カドミウムが人体にとって毒性を持ち、発がん作用があることも事実です。経口ではなく、職業環境において多量に吸引されたカドミウムが肺がんのリスクを高めることは明らかになっています。  

 本企画で繰り返し述べてきたとおり、「がん予防にいい食事」も「リスクを高める食事」も、大切なのは偏らないこと。  

 様々な食材をバランス良く食べることこそが、効果的ながん予防につながるのです。