文春オンライン

「無愛想で無骨な男」を演じがちだが…キャラが濃すぎなカムカム“虚無蔵”、松重豊が適役だったワケ

CDB

2022/03/18

genre : エンタメ, 芸能

note

映画賞、演劇賞の受賞が驚くほど少ない

『いだてん』『糸』『罪の声』『老後の資金がありません!』『今ここにある危機とぼくの好感度について』そして今年『コンフィデンスマンJP英雄編』『余命10年』。いまやドラマ映画を問わず、傑作、話題作の大半に松重豊がバイプレイヤーとして出演している。にも関わらず、今年の日本アカデミー賞にも松重豊のノミネートはない。今年だけではなく、彼は何人か選ばれる優秀助演男優賞で授賞式に招かれたことさえ一度もないのだ。

 いや、日本アカデミー賞だけを槍玉にあげるのも不公平かもしれない。調べてみて目を疑ったが、あれほど長いキャリア、高い評価にも関わらず、松重豊はいわゆる映画賞、演劇賞の受賞が驚くほど少ない。

 一見すると『東京スポーツ映画大賞』での助演男優賞受賞が目を引くが、これは『アウトレイジ』シリーズの監督である北野武が審査委員長をつとめ、「他のアウトレイジ出演者11人と共同受賞(2013)」「アウトレイジ共演者4人と共同受賞(2018)」という形だ。

ADVERTISEMENT

 2007年に毎日映画コンクール男優助演賞、2009年にヨコハマ映画祭助演男優賞受賞を受けてはいるが、人気若手俳優が毎年入れ替わりに「映画賞総ナメ」と報じられ赤絨毯を踏む中で、映画界、演劇界が松重豊に見合った賞を与えてきたとはとても言い難い。ドラマ『バイプレイヤーズ』で描かれる「日本アカデミー賞受賞式」の虚構シーンには、そうした栄冠なき助演俳優たちによる「レッドカーペット」への皮肉とユーモアがこめられていたと思う。

「ソウルドラマアワーズ」の授賞式でスピーチする俳優の松重豊さん ©共同通信社

 ひとつには、助演男優賞・助演女優賞というものが、実際にはバイプレイヤーではなく「準主役」のスター俳優に与えられる「第二主演賞」に事実上なりがちだということもあるのだろう。主人公の相棒役のスター俳優や、主演俳優の恋人である看板ヒロイン役は、確かに形式としては「助演」なのかもしれないが、「脇役」とは言い難い。そして松重豊が演じてきたのはその「脇役」としての助演なのだ。

松重と重ねて描かれる『カムカムエヴリバディ』での伴虚無蔵

 連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』で松重豊が演じる大部屋俳優・伴虚無蔵は、「準主役」でも「第二主演」でもない、純然たる「脇役」俳優である。

 ネットでは、東映京都撮影所にかつて所属し『5万回斬られた男』の異名を持つ福本清三がモデルではないかという声もあるが、一方で脚本の藤本有紀が当代一のバイプレイヤー松重豊をイメージして書いた役にも見える。鍛錬のために普段の生活から時代劇の言い回しで生活するコミカルな面から、バイプレイヤーとしての誇り、そしてもう一度スポットライトを浴びる野望までを演じる陰陽の演技はさすがと言うしかない。

©文藝春秋

 役者と役を重ねて書かれるのは松重豊だけではない。『カムカムエヴリバディ』第83回は、その松重豊演じる伴虚無蔵と、尾上菊之助が演じる桃山剣之介がオーディションの場で剣を交える白眉の回となった。

 三人のヒロインが交代で時代をつなぐというテーマに寄り添うように、尾上菊之助は一人で二世代の「モモケン」、父である初代と、その名を継ぐ息子の桃山剣之介を演じ分ける。その配役が、歌舞伎の名家である5代目尾上菊之助と無関係であり、たまたまの偶然と思う視聴者はほとんどいないだろう。