TENGAが変えたアダルトグッズ産業
ウーマナイザーというヒット作によって、女性向けアダルトグッズ市場は一気に広がった。実はこれと似た現象が、男性向けアダルトグッズでも以前起きていた。
「TENGAが出てきてオナホールのイメージ変わりましたね」
あるセルビデオ店の担当者と商談中、カップ型オナホールTENGAが発売されたことで業界が変わったと話してくれた。20年近く業界にいる彼は、TENGA誕生以前の業界の状況を知っている。TENGAが世に出る前、オナホールはマニアックな商品で、特殊な人が使う物という印象だったらしい。
「それまでは、アダルトグッズを使う=マニアックみたいなイメージでしたよ。一部の人の嗜好品でした。TENGAが出て変わりましたね。芸能人が使っていることを公言するようになって一気にメジャーになりました」
男性がアダルトグッズを手にしたときと同じ流れが、女性でも起きている。一部の人しか使っていなかったアダルトグッズが、ウーマナイザーという話題作によって一般化する。
実際、アダルト業界以外に勤める知人男性から、女性との飲み会で「ウーマナイザー」の話で盛り上がったと聞いたことがある。女性たちは「ウーマナイザーあれば男はいらない」と楽しげに話していたらしい。飲み会のネタとして、アダルトグッズの話を気軽にできるようになっている。女性の間でアダルトグッズを使う引け目が少なくなりつつあるのかもしれない。
おしゃれになりすぎた業界
女性向け商品のニーズが高まり、どんどん広がっていく一方で、筆者は、変わっていくアダルトショップに少しだけ寂しさも感じている。女性向けアダルトグッズの多くは、シンプルで、洗練されていて、ファッショナブル。美容家電と見間違える商品もある。アダルトショップ店の女性向けグッズのコーナーは、シンプルで、整然としつつも華やか、そこだけ別の空間のようだ。
わたしが業界に入ったばかりの頃、アダルトショップは、決して上品とは言えなかった。秘宝館のような、雑多で、ごちゃごちゃしていて、怪しい世界だった。扱うグッズもスタイリッシュな製品は少数で、生々しい造形や奇抜な色味、便器型オナホール、足型オナホールなどの「誰が使うの?」と言いたくなるようなバカバカしい商品も多かった。時代に合わせた規制や権利への配慮は必要だが、シンプルで美しいアダルトグッズだけに統一されてしまうのだとしたら少し寂しいというのが筆者自身の本音でもある。
美しく、おしゃれで、キラキラした新しいエロの世界が増えていくのもよいけれど、野坂昭如が小説『エロ事師たち』で書いたような、下品でバカバカしい世界も残ってほしいと願ってしまう。わたしは猥雑なアダルトショップが好きだった。女性客を取り込んだ業界は今後どう変わっていくのだろうか。