日本の養子縁組における意外な落とし穴
フェニックス市の小学校教師ジュリーは、これまで何度も担任として児童の異変に気づき、自ら児童安全局に通報したことがある。でも今回私に話してくれたのは、自分の子供たちのことだった。
彼女は日本の大学に留学し、その後、文部省(当時)で働いていたことがある。平成のはじめの頃のことだ。その後、縁あって優しく、思いやりのある日本人の男性と出会い、結婚した。しかし、もう出産のむずかしい年齢になっていた。不妊治療を行ったが費用も高く、若い頃から貯めていたお金も泡のごとく消えていった。
悩んだ末、ある日、彼女は夫にこう尋ねた。
「あなたは自分の子供が欲しいの? それとも父親になりたいの?」
夫は答えた。
「父親になることができるなら、そうしたいと思う」
そこで、二人は日本の養子縁組斡旋団体を訪ねた。が、国際結婚の夫婦には子供の斡旋はできないと言われたのだった。それは日本全国、どこの斡旋団体も同じだった。
そこで彼女は日本と日本での仕事を捨て、夫婦でアメリカに住むことにした。
アメリカなら親になる機会が均等に与えられているから、と彼女は言った。
家族になるのに血縁なんて関係ない
養子縁組エージェントはジュリー夫妻に、育児放棄から保護された2人の子供を紹介した。夫妻は、その子供たちの親になることを決心した。
2人の子の斡旋料として、夫妻はエージェントに300万円ほどを支払った。
引き取った2人のうち、男の子のほうは、2歳になっているのに立って歩けなかった。その子の母親は子供に歩き回られるのが嫌で、男の子をコーヒー豆の缶に入れていたのだった。
3歳の女の子のほうは、ご飯を食べるときに奪われるのではないかと、隠しながら急いで食べる癖がついていた。
その子供たちを育てるのは、とても大変だったけれど、と彼女は言う。今、子供たちは共に大学生で、素直に健やかに育っている。
「家族になるのに血縁なんて関係ないのよ……」
日本は、ジュリーが絶望した30年前から変わっただろうか。
日本では、今も独身女性が未成年を養子に迎えることは認められていない。
もちろん、同性婚のカップルへの養子縁組も認められない。
たとえば性的虐待を受けた女の子が男性恐怖症となり、大人になっても男性との性的関係が持てないというケースは多くある。そのことが原因で結婚をしない人もいるだろう。
考えてみてほしい。そういった女性が「子供を育てたい」「母親になりたい」と思ったとき、今の日本は、親になりたいなら、家族をつくりたいなら、男性とセックスをして子供を産む以外選択肢はない、と言わんばかりの社会制度なのだ。
それは本当に育てる側と育てられる側の、人間としての幸せに立脚しているだろうか。
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