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島の別荘に少女たちを用意し、売春を斡旋…先進国でも整備が行き届かない“里親制度の闇”〈児童虐待・福祉の現在地〉

『チャイルドヘルプと歩んで』より #2

2022/03/31

 「里親制度」や「児童養護施設」は、実家庭で生活できない子どもたちにとって不可欠な存在だ。しかし、そうした制度や施設が常に充分に機能しているとは言い難い現状もある。実際に、アメリカでは資産家のジェフリー・エプスタインが、所有する島の別荘に性的搾取や虐待の対象となる少女たちを“用意”したうえで、世界のトップセレブを招待するという信じがたい事件も起こった。

 どのようにして児童虐待から子供たちを救えば良いのか。児童福祉が抱える課題とは……。ここではノンフィクション作家の廣川まさき氏による『チャイルドヘルプと歩んで』(集英社)の一部を抜粋。同氏が、カリフォルニア州にある24時間居住型トラウマ治療養護施設「マーヴ・グリフィン・ヴィレッジ」を訪れた際に耳にした、児童福祉における厳しい現実に迫る。(全2回の2回目/前編を読む)

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「ここに来たのは12歳、クリスマスも知りませんでした」

 今日はマーヴでは年に一度の大イベント、ホリデー・パーティーの日だ。

 さまざまな人種、宗教の人々が暮らしているアメリカではあまりクリスマスと言わず、ホリデーという。パーティーにはチャイルドヘルプに多額の寄付を寄せてくれた人や、チャイルドヘルプのアンバサダーを務める俳優やスポーツ界の有名人たちが顔を揃える。

 子供たちは、ステージで歌や踊りを披露する。CEOのサラとイヴォンヌ、理事たちも参加し、子供たちと触れ合う。

 パーティーの名物司会は、俳優のジョン・ステイモスである。

 NHKで放送されていた海外ドラマ、『フルハウス』や『ER』などで、日本でもおなじみの俳優だ。彼は若い頃からマーヴの子供たちを支援しており、得意なギターやドラムを教えたりしている。

 軽快なジョークを取り交ぜた司会進行で歌や踊りの発表が終わると、ひとりの女性がマイクを持って壇上に上がった。

 女性は、壇上から遠くの子供たちの姿を見つめて言った。

「今、私は21歳です。保護されてここに来たのは12歳のときでした。それまで私は、字を書くことも文字を読むこともできませんでした。クリスマスというものも知りませんでした。サンタクロースの存在も知りませんでした……」

 彼女の声は震えていた。

©️iStock.com

「ここに来てはじめて、朝起きて朝食を食べること、昼になると昼食を食べること、夜には夕食を食べることを知りました。それまで、食事を三食食べるということを知らなかったのです。

 そしてここに来るまで、笑うことがありませんでした。笑う経験をしたことがなかったのです。笑うことがどういうことかわかりませんでした」

 彼女は、ステージ下のサラとイヴォンヌに視線を送って言った。

「私を救ってくださって、ありがとうございます。

 私のような子供を救ってくれる場所をつくってくださって、ありがとうございます。

 そして私に毎日の食事と、毎日安心して眠ることができる場所と、毎日学ぶことができる教育を与えてくださって、ありがとうございます」

 そして彼女は顔を上げると力強く言った。

「今、私は社会の一員として働き、自分で生きていくことができています。私たちを、無条件の愛のもとに育ててくださって、本当にありがとうございました」