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捜査本部にかかってきた犯人からの電話

 事件が起きた翌日の7月15日、朝礼後、部下に指示を出して生田署の捜査本部にとどまっていたとき、電話が鳴った。庶務の人間以外、出払っていて誰もいない。私は自分で電話に出た。

「生田署です」

「ああ、新聞に出とる昨日の事件のもんやけど」

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「何の事件ですか」

「警官殺しの」

 私はその瞬間、本部の電話にあらかじめ設置してある録音のスイッチを入れた。

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「三宮の事件か」

「ワシがやった。ナイフで刺した。自首しようかどうか、迷っとる」

「やったんやな。それなら潔く自首しなさい。いまどこにおるんや」

「警官は生きとるんか」

「それはまだ分からん」

「すまんことをしたと思っとる。でも仕方なかったんや」

「そう思うなら、自首せんと」

「……あんた名前は?」

「捜査本部の山下だ」

「やっぱり考える。また夕方にでも電話する」

 何とか引き延ばそうとしたが、関西風のなまりのあった男からの電話はわずか3分ほどで切れた。

「誰です?」

 私の異変を察知した署員が質問してきた。

「自分がやったと言うとる。本ボシの可能性があるな。自首するかどうか、またかけると言うとったが……」

 確信があったわけではないが、いたずら電話のようには思えなかったため、私は夕方、再び電話がかかってくることを期待し、準備に取りかかった。自首せず、逃げると宣言した場合に備え、できるだけ犯人の生い立ちや身元特定につながる情報を引き出す必要がある。質問項目を書き出し、再び電話がかかってきた場合のイメージを、頭のなかで何度も繰り返した。

 後に分かったことだが、男はこの日午前中、中央市民病院に電話し、2巡査の容体について問い合わせており、「事件に関することは警察に聞いてくれ」と捜査本部のある生田署の電話番号を教えられていたことが分かった。

 夕方、午後4時40分。私が捜査本部の電話を取ると、すぐに録音のスイッチを入れた。昼の男と同じ声が聞こえてきた。