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 G巡査 「こんな時間に何しとる」

 男 「人待っとんや」

 留巡査 「仕事は何しとん」

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 男 「トビや」

 G巡査 「新開地や生田川によくおるようなあんな奴か」

 男 「そこまで知らんけど、日雇いみたいなもんや」

 G巡査 「悪いけど、ちょっと紙袋を見せてくれ。自分で開いてくれる?」

 男が手に持っていた紙袋の中身を見せると、さらにG巡査が追及した。

 G巡査 「ポケットのなかのもの、見せてくれる?」

 そのとき、男が叫んだ。

 男 「そこまでされる必要はない!」

 そして、いきなり背を向けると逃走を企てた。

「公葬までに犯人を検挙せよ」

「待てッ!」

 2人の巡査が後を追い、約20メートル離れた場所で留巡査が後ろから男の腕をつかんだ。次の瞬間、男は隠し持っていた刃渡り8・5センチの折り畳み式ナイフで留巡査の胸を突いた。男は逃げようとしたが、G巡査がそれを阻止する形で正対。すると男は、G巡査の脇腹にもナイフを突き刺し、その場から逃げ去った。

「頼むぞ……」

 それが留巡査の最期の言葉となった。

こんな事件が起きていいはずがない

〈兵庫本部から生田、北長狭通1丁目路上において、2人の男が何者かに刺され血まみれになって倒れている。至急現場へ急行せよ〉

 通行人らの110番、119番通報を受け、生田署員らが現場に向かう。犯人に刺された2人の巡査は神戸市立中央市民病院に搬送されたが、刃物が心臓に達した留巡査は失血死し、G巡査も全治3ヵ月の重傷を負った。

 私が現場に駆けつけたとき、鑑識はまだ殺害の現場を特定している最中だった。その後、26歳の若き警察官が命を落としたと聞き、私は呆然(ぼうぜん)とした。犯罪捜査は危険と隣り合わせの仕事ではあるが、通常の職務質問に対してこんな事件が起きていいはずがない。

 仲間の殉職を知り、人目もはばからず涙を流した同僚も多かった。警察庁もこの警官殺傷事件を最重要事件のひとつに指定。一課と生田署が中心となった捜査本部が設置され、グリコ・森永事件以来となる100名規模の捜査員が配置された。

「何としても、公葬までに犯人を検挙せよ」

 殉職事件の場合、おおむね1ヵ月後には兵庫県警として故人を弔う公葬が執り行なわれるのが通例だ。

 捜査主任官をつとめた私にとって、失敗の許されない捜査が始まった。