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犯人からの二度目の電話
「もしもし。山下さん、おる?」
「私やけど、昼に電話くれたあんたやな。自首する気持ちになってくれたか」
「まだ考えとる」
そのとき、受話器から駅のホームに流れるアナウンスのような音声が聞こえてきた。
「いまどこにおるんかな」
「新大阪駅の新幹線のホームや」
新幹線と聞いて、私は自首の可能性が低くなったことを感じた。「何とか切らさんようにせなあかん」という意識が急に大きくなった。
「まあ、少し話聞かせてくれ。名前はなんていうんや」
「……」
「どこに住んどる。両親や家族はおるんか」
「おらん。結婚もしとらん、一人もんや」
「年齢は」
「もう40近い」
「そうか。日ごろは何しとるんや」
「喫茶店とか、映画館には行く」
できるだけ、刺激の少ない話をつないで電話を切らさないように心がけたが、男はついにこう「宣言」した。
「やっぱり自首は無理や」
そこで電話は切れた。今回は6分間と1回目よりは引き延ばしたが、男から再び電話がかかってくることはなかった。録音を検証した結果、男の言葉通り新大阪駅で流された「ひかり号」の出発アナウンスが入っており、男の話がまったくのデタラメではないことが分かってきた。この犯人の音声は、事件の捜査において重要な意味を持つことになる。
8月11日、留警部補の公葬が執り行われた。残念ながらこの日までに犯人を検挙することはできなかったが、捜査員の集中力が途切れることはなかった。