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「炊飯時間をずらすだけで命が救える」東日本大震災後に広まった“ヤシマ作戦”の舞台裏…石巻出身の20歳青年に「エヴァ」公式が賛同したワケ

『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』より #1

2022/03/24
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「特務機関NERV」を名乗って節電を呼びかけ

 実は、このNERVアカウントは11年1月でいったん投稿をやめている。全国各地に発表される警報とその解除を延々とつぶやく。投稿は一日数百件に上ることもあるが、反応はほとんどない。

「このままボットで警報だけつぶやいててもな……」

 そんな思いがあったという。

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 だが今回は、そのアカウントが役立つかもしれない。

「これは、ヤシマ作戦だ」

 計画停電の可能性、節電の呼びかけをみて石森はそう思った。医療機関など、絶対的に電力を必要とする場所がある。さらに、全国で節電が進めばいまだ連絡が取れない被災地に電力を送れるかもしれないとの思いもあった。

 実際には関西や九州で節電して余剰電力が生まれても、関東や東北に送電できるのは一部だ。当初情報が錯綜し、「節電した分被災地の電気がつく」と考えたものも多かったが、それは誤解だ。

 それでも送電による電力融通をスムーズにするために、あるいは意識の啓発や今後の需給逼迫の可能性を考えると、全国的な節電にも必ず意味はあるだろう。

 節電をするのは簡単だ。家の電気を消し、家電のコンセントを抜けばいい。誰にでもできる。

写真はイメージです ©iStock.com

 一方で、ひとりでやっても意味がない。ヤシマ作戦になぞらえた節電の呼びかけを「特務機関NERV」を名乗るアカウントでつぶやけば、何人かの人には届くかもしれない。

 3月12日15時11分、石森はNERVアカウントのその後を大きく変える投稿をする。

〈【ヤシマ作戦】午後6時から電力が著しく不足します。(中略)店に並ぶ機器類の電源を止めてください。需要は午後6時~7時がピークだとか。特にその時間帯には、極力電力の消費を避けて下さい。炊飯時間をずらすだけでも、救える命があります。〉

 続けて、15時15分。

〈ヤシマ作戦は本日18時より発動いたします。節電にご協力ください。〉 

 そして、16時38分には節電の呼びかけとプロジェクトの概要を記した「公式」ホームページまで開設した。

〈【ヤシマ作戦】ヤシマ作戦を正式通達します。 http://nerv.evangelion.ne.jp/〉

「いいね」や「リツイート」を知らせるツイッターの通知が止まらなくなった。経験したことのない拡散のされ方だった。フォロワーわずか300人ほどのアカウントが発した3つのツイートは合わせて1万5000回以上リツイートされ、この発信がきっかけとなって「ヤシマ作戦」に言及したツイートが爆発的に増えていく。その数は、1週間で60万回とも言われる。