2022年1月時点でダウンロード数206万回を誇る防災アプリ「特務機関NERV(ネルフ)」。今や“最強の災害情報インフラ”として知られる存在になった。アプリを開発したのは石巻市出身のホワイトハッカー、石森大貴氏だ。

 ここでは、ノンフィクションライターの川口穣氏が「特務機関NERV」の開発秘話を綴った著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)から一部を抜粋。アプリがリリースされた当初のエピソードや、アプリの基本機能などを紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)

写真はイメージです ©iStock.com

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2019年9月1日にアプリリリース

 私たちが加速したから、1日がとても長く感じられるようになった──。

 アプリリリース直前の2~3カ月のことを石森はそう振り返る。櫻木や橘ら特務機関NERVのほかのメンバーに聞いても、このあたりの時期はほとんど記憶がないという。メンバーは猛烈な勢いで開発とテストを繰り返していた。気象庁との記者会見で2019年9月1日リリースを発表しており、公開を遅らせることはできない。

「開発とデザインはもちろん、ウェブサイトを整備しなきゃいけない、アップルに審査を出さなきゃ間に合わない、プレスリリースは……、と山のようなタスクがありました。1カ月前には絶対に間に合わないと思ったけれど、8月最後の1週間であれもできた、これもできた、というのがどんどん出てきて、8月31日には『あれ、まだ1日あったんだ』と思ったことを覚えています」

 それでも、9月1日に間に合うかどうかはギリギリの攻防だった。当時、コミュニケーションツール「スラック」で行われていたメンバーたちのやり取りが残っている。

 8月31日、0時1分

〈あと36時間!!!!!〉

 朝4時36分

〈北方領土(の地名表示が)、ロシア語になってる! 大丈夫なんだっけ?〉

〈大丈夫じゃないですね〉

〈念のため竹島も見て!〉

〈大雨危険度通知の専用画面はつくる?〉

〈ほかの画面で見られるから、今回はなしにしよう〉

 ようやく石森の作業が終わったのは、リリース当日、9月1日になったころだ。

 0時7分

〈アプリリリース11時に設定、コーポレートサイトを11時55分に設定、正午にリリースのツイートします!〉

 石森は言う。

「結婚式の前夜みたいな雰囲気でした。あー、明日か、明日にはこのアプリをみんなが使うようになるんだ、と、うれしいような、緊張するような。ものすごく疲れていて寝たいはずなのに、メンバーたちと話していたくてずっとやり取りしていました」