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200万ダウンロード超えの防災アプリ「特務機関NERV」 気象庁職員が「ここまで使えるのはほかにない」と認める“最強の災害情報インフラ”誕生秘話

『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』より #2

2022/03/24
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 創業当初のゲヒルンを支援し、かつては親会社の社長でもあった濱渦伸次はしみじみと言う。

「夢を見せてくれる会社だとは思っていたけれど、特務機関NERVをつくり切ったのは本当にすごい。いまはひとりのファンとして、彼らの活躍を楽しませてもらっています」

「ここまで使える防災アプリはほかにない」

 そして、特務機関NERV防災アプリは「防災のプロ」たちからも支持された。

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 ある気象庁職員もこう話す。

「仕事柄あらゆる防災アプリを入れているけれど、『使う』のは特務機関NERVです。起動のスムーズさ、情報の速さは言うに及ばず、全国の状況をタイムライン的にみられる画面や、アメダスのデータ、解析積雪深など情報の質と見せ方が素晴らしい。立場上ひとつのアプリには肩入れできないけれど、ここまで使える防災アプリはほかにありません」

 そして、一民間企業にこれだけのことをやらせているのが申し訳ないとも言う。

 石森が小学校時代から積み重ねてきた知識、ゲヒルンに集った稀代のエンジニアたち、そして、石森とメンバーの熱意。

 それらが混ざり合い、特務機関NERV防災アプリへと昇華した。

 iOS版のリリースを終え、メンバーたちは思い思いに休暇をとった。リリースまでの数カ月、ほとんど休む間もなく開発に奔走した彼らにとって久しぶりの空白の時間だ。一方で次の開発も目前に迫っていた。

 アプリ開発の核を担った橘雄太は言う。

「iOS版をリリースした直後はほっとしました。すぐにいろいろな方から反応をもらってうれしい半面、小さなバグも見つかったし、リリースには間に合わなかった実装予定の機能もたくさんある。アプリはリリースして終わりではありません。何より、アンドロイド版の開発が控えていて、むしろこれが始まりだなと思ったのを覚えています」

 SNS上でも、ゲヒルンの問い合わせフォームからも、毎日のようにアンドロイド版の公開を待ち望む声が上がっていた。10月に入り、開発チームはアンドロイド版の作成に着手する。公開予定日は決まっていなかったが、12月末に新たなプロジェクトの発表が決まり、その前に公開にこぎつけることが至上命題となった。

 iOS版の開発中からアンドロイド版をつくることは決めていた。アプリの土台になるフレームワークはどちらにも対応できるよう設計しており、アンドロイド用に変換するだけで流用できる部分も多い。一方、新たに書き直すコードも多数あった。

写真はイメージです ©iStock.com

 石森も橘もほかのメンバーも、アンドロイドアプリをつくることはおろか、アンドロイドユーザーですらない。まずは実機を数台、買ってくるところからのスタートだった。

 石森自身はそれまでもアンドロイド端末を持っていたという。ただ、ほとんど使ってはいなかった。橘にいたっては触るのもほぼ初めてに近い状態だ。

 11月初旬、石森が橘に進捗を尋ねたとき、橘はこう答えている。

「いま、本を読んでいます」