文春オンライン

200万ダウンロード超えの防災アプリ「特務機関NERV」 気象庁職員が「ここまで使えるのはほかにない」と認める“最強の災害情報インフラ”誕生秘話

『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』より #2

2022/03/24
note

 橘の手元にあったのはアンドロイドアプリ開発の入門書が3~4冊。

 そこから本当にリリースまでこぎつけられるのか。それでも、それを聞いた石森は「順調」だと判断したという。

「特に重たい開発のときは、『まだちょっと手が付けられていなくて……』となることがよくあります。でも、本を読んでいるということは今まさに取り組んでいるということ。やり始めればできるだろうと思っていました」

ADVERTISEMENT

アプリ開発は止まらない

 そして、それからわずか1カ月半後の12月18日、「特務機関NERV防災アプリ」のアンドロイド版が本当にリリースされた。

 アンドロイドは、iPhoneと比べて市場に投入されている機種が段違いに多い。画面のサイズも様々、OSの挙動も機種ごとに少しずつカスタマイズされている。テストの手間はiOSの何倍にもなる。すべての実機を用意することはできず、クラウド上で機種ごとの挙動を確認するサービスを使いテストを繰り返した。

 橘はアンドロイド版の開発を振り返り、こう言う。

「アンドロイド版を待ってくれている人が大勢いるのは感じていました。アンドロイド版を出し、よりたくさんの方に活用してもらえるようになったのはうれしいこと。アプリは情報を得るひとつの手段でしかないけれど、エンジニアとして本当にやりがいのある仕事でした」

 特務機関NERV防災アプリは、それからも進化を続けている。緊急地震速報現在地予想の実装のほかにも、リリースから2年で様々な役立つ機能を拡充してきた。

 2020年9月にはアメダスが観測した降水量・風向/風速・気温の最新情報を地図上に表示するレイヤーの追加、21年1月には機能の一部をアプリを立ち上げることなく画面上に表示しておける「ウィジェット機能(iOS14)」の開発と積雪情報の搭載開始、21年4月には火山灰の降灰予報に対応……。

 決してアプリの肥大化に走ることなく、それでもかゆいところに手が届く機能を次々に実装してきた。降灰予報は宮崎在住のデザイナー、櫻木ハンナとの会話から生まれたものだ。櫻木の自宅は、桜島や鹿児島・宮崎県境にある新燃岳の噴火の影響を受けるエリアにある。

 石森は言う。

「火山は防災情報のなかでも忘れられがちですが、突然噴火して大きな危機になることもある。火山情報はできる限り丁寧にやりたいと思っていました。噴火速報などは当初から予定していましたが、宮崎に住んでいる櫻木が、『洗濯物を干すときに火山灰が降ってくるから困る』『でも降ってこない日もあって』という話をしていて、じゃあ降りそうなら通知がほしいよね、と開発した機能です」

関連記事