2022年1月時点でダウンロード数206万回を誇る防災アプリ「特務機関NERV(ネルフ)」。今や“最強の災害情報インフラ”として知られる存在になった。アプリを開発したのは石巻市出身のホワイトハッカー、石森大貴氏だ。
ここでは、ノンフィクションライターの川口穣氏が「特務機関NERV」の開発秘話を綴った著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)から一部を抜粋。東日本大震災発生後、石森氏が立ち上げたツイッターアカウント「特務機関NERV」によって、節電作戦“ヤシマ作戦”が広まった背景を紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)
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節電時に自然発生的に使われ始めた言葉
このころ、東京には電力危機が迫っていた(編集部注:2011年3月12日)。
震災直後から、東北電力管内では最大約466万戸、東京電力管内では約405万戸の停電が発生していた。東京電力管内では12日になって少しずつ復旧していたが、今度は電力の需給が逼迫したのだ。
東京電力が持つ発電施設は、地震と津波で全電源を喪失し「原子力緊急事態」が宣言される福島第一原発・第二原発に加え、12日4時時点で火力5発電所10機、水力24発電所が停止。流通設備にも甚大な被害が出ていた。
この時点での東京電力の供給力は、他地域から融通を受けた分を含めても3500万キロワットだったとされる。震災前の7割弱にまで落ち込んでいた。一方、この時期のピーク時の想定需要量は4100万キロワットにのぼる。工場など大口顧客への節電要請によって需要を圧縮したが、それでも電気の使用がピークを迎える18時~19時には3800万キロワットの需要が予想された。300万キロワット不足する計算だ。電力の需給バランスが崩れると、管内で大規模停電が発生する恐れがある。
その後、水力発電所の復旧が進み供給力は3700万キロワットまで回復したが、東京電力は停電の可能性に言及、不要な照明や電気機器の使用を控えるよう求めた。
そんななかで自然発生的に使われ始めた言葉がある。
ヤシマ作戦──。