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「炊飯時間をずらすだけで命が救える」東日本大震災後に広まった“ヤシマ作戦”の舞台裏…石巻出身の20歳青年に「エヴァ」公式が賛同したワケ

『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』より #1

2022/03/24
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 節電呼びかけの効果があってか、12、13日は電力供給が追い付かない事態は回避された。震災翌日、被災地の状況が全くわからない超緊急期。仮に首都・東京が停電していれば、さらなる大混乱は避けられなかっただろう。それを回避できたのは、市民レベルの意識の広がりがあってこそだった。

 ただし、12、13日は週末で休業する企業が多く、もともと電力の需要が少ない。東京電力は13日、週が明ける14日から輪番による計画停電を行うと発表した。東京電力管内を5グループに分け、各グループ3時間程度ずつ停電させるという。石森は計画停電が発表されて以降をヤシマ作戦の「フェーズ2」と位置付け、さらなる拡散を図った。

ツイッターではヤシマ作戦のハッシュタグも

 ツイッターでは、ヤシマ作戦を広げるためのハッシュタグも作られた。ハッシュタグとはツイートの内容を表すキーワードで、そのタグを検索することで関連のツイートを一覧で確認できる。発信の広まりを示す記号ともいえるだろう。ヤシマ作戦フェーズ2のハッシュタグは「#84MA」と決まった。

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 情報を収集し、現状をまとめるための「wiki(ウィキ)」もつくった。ウィキとは不特定多数のユーザーが直接コンテンツを編集するウェブサイトのことで、ウィキペディアがその代表格と言える。自分ひとりであらゆる節電情報を集めるのは不可能だ。全国のユーザーがウィキを更新することで、常に最新の情報を把握できるようにする取り組みだった。

 石森が必要な作業を「タスクリスト」にまとめ、手を動かせるものがそれを更新していく。郵便番号で輪番停電予定を検索できるシステムも整備した。また、14日からは在日外国人から翻訳の申し出を受け、多言語に対応するための取り組みも始めている。

 計画停電は3月14日から28日まで、2週間にわたって続いた。それでも、節電の呼びかけとその広まりは確実に効果を上げており、停電地域に指定されながらも停電が回避されるケースが相次いだ。

 ヤシマ作戦による節電の呼びかけは夏の需要増が落ち着くまで、数カ月の間続いた。

 混乱期に立ち上がったインターネット上のうねりである「ヤシマ作戦」が、実際にどれだけ節電に貢献したのか明確なデータはない。それでも、ソーシャルメディアが情報の発信と共有を担い、社会的なムーブメントを起こすエポックメイキングな出来事になった。

後編へ続く

「炊飯時間をずらすだけで命が救える」東日本大震災後に広まった“ヤシマ作戦”の舞台裏…石巻出身の20歳青年に「エヴァ」公式が賛同したワケ

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