節電呼びかけの効果があってか、12、13日は電力供給が追い付かない事態は回避された。震災翌日、被災地の状況が全くわからない超緊急期。仮に首都・東京が停電していれば、さらなる大混乱は避けられなかっただろう。それを回避できたのは、市民レベルの意識の広がりがあってこそだった。
ただし、12、13日は週末で休業する企業が多く、もともと電力の需要が少ない。東京電力は13日、週が明ける14日から輪番による計画停電を行うと発表した。東京電力管内を5グループに分け、各グループ3時間程度ずつ停電させるという。石森は計画停電が発表されて以降をヤシマ作戦の「フェーズ2」と位置付け、さらなる拡散を図った。
ツイッターではヤシマ作戦のハッシュタグも
ツイッターでは、ヤシマ作戦を広げるためのハッシュタグも作られた。ハッシュタグとはツイートの内容を表すキーワードで、そのタグを検索することで関連のツイートを一覧で確認できる。発信の広まりを示す記号ともいえるだろう。ヤシマ作戦フェーズ2のハッシュタグは「#84MA」と決まった。
情報を収集し、現状をまとめるための「wiki(ウィキ)」もつくった。ウィキとは不特定多数のユーザーが直接コンテンツを編集するウェブサイトのことで、ウィキペディアがその代表格と言える。自分ひとりであらゆる節電情報を集めるのは不可能だ。全国のユーザーがウィキを更新することで、常に最新の情報を把握できるようにする取り組みだった。
石森が必要な作業を「タスクリスト」にまとめ、手を動かせるものがそれを更新していく。郵便番号で輪番停電予定を検索できるシステムも整備した。また、14日からは在日外国人から翻訳の申し出を受け、多言語に対応するための取り組みも始めている。
計画停電は3月14日から28日まで、2週間にわたって続いた。それでも、節電の呼びかけとその広まりは確実に効果を上げており、停電地域に指定されながらも停電が回避されるケースが相次いだ。
ヤシマ作戦による節電の呼びかけは夏の需要増が落ち着くまで、数カ月の間続いた。
混乱期に立ち上がったインターネット上のうねりである「ヤシマ作戦」が、実際にどれだけ節電に貢献したのか明確なデータはない。それでも、ソーシャルメディアが情報の発信と共有を担い、社会的なムーブメントを起こすエポックメイキングな出来事になった。
【後編へ続く】