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妻に3000万円の保険金をかけられ「自殺してこい」

「しまいには3000万円の生命保険を掛けられて『あんたに騙されて結婚させられた。自殺して来い』と言われて自殺を決心したんだと。そんなことが本当にあるんかと、男性の母親に電話をして確認したら、『その通りです。嫁がきつくて毎日暴力を振るわれているって……。夫婦仲が原因で殺傷沙汰にならないように毎日お参りしていたんです』っておっしゃったんです。

 離婚したらいいのと違いますかと言ったのですが、嫁から『離婚してやるから、800万円の慰謝料を請求する』と脅されたことがあるんですと。『息子のために払ってやりたいけど、そんな大金は払えないから、離婚はあきらめざるを得なかったんです』って」

東尋坊 ©文藝春秋

 事態の深刻さから、茂さんはすぐに男性とともに中国地方に住む妻のもとに向かった。

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「なんと奥さんは保険金が支払われる前提で引っ越し準備を進めていて、生命保険の請求書も揃えていたんですわ。こりゃいかんなと『自殺関与罪で罪に問われるぞ。許さんぞ!』と言って、告訴しない代わりに慰謝料無しでその場で離婚届にサインさせたんです。その男性からは今でも年賀状が届きます。母親と仲良う暮らしているようです」

DVに悩んだ娘「父親を殺すか、自分が死ぬか」

 行き詰まった親子関係を改善に導いたこともある。3年前の春頃に保護した30代の女性のケースだ。その女性は涙ながらにこう訴えたという。

「父が母に暴力をふるっているんです。暴言を吐いたりお茶碗を投げつけたりすることは日常茶飯事。娘の私にも『いい年して結婚も仕事もしない』と罵声を浴びせてくる。食事は必ず一緒に食べないとダメだと言われ、離れることもできません。自分の部屋にいても父の足音が聞こえると鳥肌が立つんです」

 女性の妹もうつ病を発症しているといい、家族全員が父親の言動に苦しんでいる状況が徐々に分かってきた。茂さんが語る。

 

「その女性は『昨晩、父がいなくなれば家族が円満に暮らせると思い、父を殺そうと台所から出刃包丁を持ち出したんです』とまで言ったんです。でも『寝ている父の枕元に立って刺し殺そうとした瞬間、失敗したら自分がやられるし、成功しても大変なことになってしまう』と思ってできなかったと。それで『父親を殺せないなら自分が死ぬしかない』と思って、東尋坊まで来たということでした」