まずは女性を、保護した人を泊めるための「シェルター」へ連れていき、2日ほど休ませ、どうすべきかを相談した。
父親に「出刃包丁を持ってきて見せつけるんや」
「父親が家から出て行くか娘が独り立ちするしかない、そう判断しました。そして父親に電話して、『あした娘を連れていく。話があるから待っとれ』と言ったんです」
翌日、茂さんが女性を連れて父親のもとを訪ねると、父親は物凄い剣幕で「お前はウチに何の関係がある!?」と怒鳴った。茂さんは怯まずに、「出刃包丁を持ってきて見せつけるんや」と女性に言ったのだという。
「娘が『これで殺そうと思ったんです』と話すと、父親は『うわっ!』と驚きの声を上げていた。『あんたがこの家から出ていきなさい』と父親に言うたんですけど、母親が庇ってね。『お父さんが出て行ってはダメ。許して茂さん』とおっしゃった」
結局、娘2人が実家を出ることで話がまとまった。その日のうちに茂さんが近くの不動産屋に同行し、アパートの契約を進めた。その後は、母親が娘たちの住むアパートに定期的に寄るなどして、家族で支え合って暮らしているという。
自殺企図者の背中「崖下を覗き込んでいる」
“おせっかい”という言葉が死語になりつつある現代で、茂さんたちの踏み込んだ支援には賛否があるかもしれない。しかし彼らの行動のおかげで命をつないでいる人々がいることは、紛れもない事実だ。
それにしても、茂さんたちはどうやって救うべき「自殺しようとしている人」を見極めるのだろうか。
「なんかね、見たらわかるんですよ。手荷物がほとんどなく、手土産も持っていない。岩場付近のベンチに座って観光客を装ってはいますが、人混みを避けて景色を見るというよりは、崖下を覗き込んでいる。日没も気にせず2〜3時間も休憩したりしていることが多いですね。黒っぽい目立たない服装の人が多いかな」
背中が語るものがある。茂さんが「自殺の実態を知ってほしい」と差し出した写真には、思い詰めて東尋坊の先を眺める人々の“背中”が写っていた。そこには生きることの重みが写し取られていたのだ――。
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NPO法人「心に響く文集・編集局」からは茂さんへの相談の予約などができる。
【厚生労働省のサイトで紹介している主な悩み相談窓口】
▼いのちの電話 0570-783-556(午前10時~午後10時)、0120-783-556(午後4時~同9時、毎月10日は午前8時~翌日午前9時)
▼こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556(対応の曜日・時間は都道府県により異なる)
▼よりそいホットライン 0120-279-338(24時間対応) 岩手、宮城、福島各県からは0120-279-226(24時間対応)
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