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権限がないのに「ペンスは選挙結果を各州に差し戻せ」と叫ぶ理由

――トランプのウソを信じるために陰謀論を必要とする背景事情は、本書にある説明がわかりやすかったです。「説明のつかないものを、どうにかして納得しようとする時、キリスト教の基本構造とアメリカ固有の合理主義史観が合わさることで、陰謀論の温床ができあがる」(「中央公論」2021年5月号、国際基督教大学教授・森本あんり談)とあります。

横田 トランプは大統領選挙が行われる年の春から、「自分が選挙で負けることがあっても、それは郵便投票による不正のせいだ」と陰謀論の種まきを始めています。実際に選挙で負けると、そのこと自体を「フェイクニュース」と呼び、それを聞いた支持者たちもトランプは負けていないと信じます。その根拠は、集計システムがハッキングされてトランプ票がバイデン票になったとか、バイデン票が印刷されて運びこまれたといった、デタラメな不正選挙の陰謀論です。

――トランプは「副大統領のペンスは、選挙結果を各州に差し戻せ」とも言いますね。メディアはそんな権限は副大統領にないことを伝えないんですか?

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横田 トランプ寄りのメディアはそれを伝えない。では、どう言うかというと、「『各州に差し戻す権限がある』とトランプは言っている」と報じるわけです。CNNは「権限はない」とはっきり言うけれども、トランプ支持者はそもそもCNNを見ませんから。それで好んで見るFOXなどのメディアが、ペンスには権限があるみたいなこと言うから、支持者はそれを信じてしまう。

 副大統領に差し戻す権限がないことは、憲法を読めば、すぐにわかります。でもトランプ信者はそういうことはしないし、曲解したFOXなどのニュースを見て、トランプの言う通り、ペンスは差し戻すべきだと思ってしまう。それで「ペンスのクビを吊れ」みたいなことになっていく。

襲撃参加者といくら議論してもまったく噛み合わない

――ウソが陰謀論を必要とし、陰謀論を信じたひとの行末にあるのが1月6日の連邦議事堂襲撃です。

連邦議事堂で閃光弾が爆発した直後 ©横田増生

横田 当初は支持者たちの私的な集会の予定だったのが、トランプが俺も演説するよとツイートしたら、ものすごい人数が集まり、今から議事堂まで一緒に歩いて行こうなんて言ったら、みんながワーッと攻め行っちゃった感じです。

 襲撃に参加した人たちを実際にその場で取材したけれども、彼らは彼らで不正選挙を本気で信じているからね。いくら議論しても、彼らの話は事実に基づいていないですから、まったく噛み合わない。トランプが自分に都合の悪い事実を「フェイクニュース」と呼んだ4年間が、いかにアメリカの民主主義を壊していったことか……。

 でも、それを書くしかない。「トランプ支持者はこう言っている。それに反論をぶつけると、こう言い返してくる」と。