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ひとりひとりにQアノンになるプロセスがある

――憎悪の渦中に入っていき、たとえ間違った考えの人物であっても、きちんと向き合ってその人の話を聞く……そういう意味で本書は、安田浩一『ネットと愛国』に重なるルポだとも思いました。

横田 そう言われてみると共通するところがあるかもしれない。ひとりひとりを掘り下げていくと、それはそれで語るに足りる相手だったりするわけで。たとえば取材したQアノンの女性なんかも、ワシントンDCに来て一番心苦しいのはホームレスがいっぱいいることだ、だからホームレスにお金を渡すんだと言うんです。Qアノンとホームレス支援はつながらないけれども、実際彼女はそうしている。

 安田さんの『ネットと愛国』も、ヘイトデモをする人たちそれぞれに、そこに陥るプロセスがあって、それを聞いていく。同じように、ひとりひとりにQアノンになるプロセスがある。事実と異なることを信じているけれども、それを信じている気持ちにウソはない。そこをちゃんと反応しながら聞いていくと、彼らの立ち位置が見えてきますよね。

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 本気でトランプを信じてないとワシントンDCまで行けないですよ。飛行機を乗り継いで来た人とか、2日かけて車を運転してきた人とかいっぱいいる。並大抵のことではそこまでできない。そこにはその人なりの信念がある。ぜんぶがぜんぶ理解はできないけれども、信者になる道筋はわかったという気持ちでいましたね。

“Qアノンのシャーマン”と呼ばれたジェイコブ・チャンスリー。連邦議事堂襲撃に加わり公務執行妨害で実刑判決を受けた ©横田増生

こんなふうに民主主義は壊されるのか

――あそこまでは、ちょっとやそっとじゃ、できないですよね。

横田 ほんとうに陰謀論を信じている。トランプの選挙に不正があると心底、信じている。その気持ちにウソはない。そこが空恐ろしい。

 でも彼らの人生だからね。今回の本はテーマとして、政治家のウソや陰謀論を野放しにすると民主主義は壊れてしまうというものですが、その前段にはトランプ信者の話をちゃんと聞いて、僕は間違っていると思うけれども、その人たちの話を読者に伝えようというのがあります。この本に出てくる人たちが駄目かどうか、それは読んだ人が決めることであってね。

――本書の副題は「私の目の前で民主主義が死んだ」です。連邦議事堂襲撃事件の日、そう痛切に思ったとあります。

横田 あの日、ホテルの部屋に戻ってテレビでみていたら、4人が亡くなったと聞いて、こんなふうに民主主義は壊されるのかと思いました。不正選挙がウソだってわかっているから余計に悔しかった。

 それも微妙なウソではなく、裁判でも票の再集計でもトランプの主張する不正選挙の根拠はウソだとなった。それでもトランプに扇動されて、ウソと陰謀論に踊らされて700人ぐらいが逮捕された。多くの人は今でも不正選挙だと思っている。それを信じている彼らは悲しいね。だから民主主義のためだけでなく、襲撃した彼らのためにも泣けてきましたね。ほんとうに。