ユニクロ、アマゾンなどに潜入取材をしてきたジャーナリスト・横田増生氏。新作『「トランプ信者」潜入一年』(小学館)は、共和党の選挙ボランティアとして“潜入”して、1000軒以上の家を戸別訪問してまわり、トランプの支持者集会や連邦議事堂襲撃事件の現場にも入り込んで取材を重ねて書いたものだ。
その横田氏に、生で見たドナルド・トランプ、そして陰謀論を本気で信じるアメリカの人々について話を聞いた。
演説がひとつの芸になっている
――ドナルド・トランプは支持者集会で90分も喋り続けるとあり、驚きました。
横田 トランプは緩急をつけて聴衆を惹きつけながら、話し続けます。しかもプロンプターを見ることもない。それでも言いよどんだり、言葉を噛んだりすることはありません。あとで映像を見ても、原稿をめくっている様子もない。90分間、全部アドリブでしょうね。
そうはいっても、彼の演説を見て回るとネタは使いまわしで、どこでも中身はだいたい同じです。実績自慢として「退役軍人の医療システムを直してやったんだ」などと事実と異なることをいくつも並べたり、ジョー・バイデンやバラク・オバマの悪口を言ったり、そうした柱がいくつかあって、それらを表現を変えているだけではあります。
だけども、トランプはかなりの役者というか、演説がひとつの芸になっている。テレビのリアリティ番組に出ていた時期に、そこで人を楽しませる話術をモノにしたのかな。だから、なかなか様になっていて、彼の支持者集会は、エンターテイメントになっていますね。
負のエネルギーで扇動
――『「トランプ信者」潜入一年』には、支持者集会のトランプは同時に扇動者であるとも書かれています。集会はいわば“憎悪のライブエンタメ”なのでしょうか?
横田 彼のエンターテイメントというのは、敵を見つけて、やっつけていくスタイルですよね。バイデンを「スリーピー(寝ぼけた)・ジョー」、エリザベス・ウォーレンを「ポカホンタス」とあだ名をつけてコケにしたりして、会場を盛り上げる。同じ共和党であっても自分を支持しない政治家、たとえばジョン・マケインのことを悪く言う。
身内でもなんでも自分の味方にならない者は大嫌い、自分に四の五の言うやつは全員叩き潰すみたいな感じです。そうした負のエネルギーで扇動する。
それからメディア攻撃です。「あそこにフェイクニュースの奴らがいるぞ」とメディア席のほうを向いてトランプが言うと、聴衆が大ブーイングを起こす。これが1回か2回、お決まりのように必ずある。支持者集会の“アトラクション”のひとつみたいなもんです。もちろん演説のなかでもフェイクニュースの話を何回もします。
そうやって、みんなで盛り上がって、溜飲をさげるんですね。