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アメリカにおけるメディアの棲み分け

――アメリカでは、チャンネルによって、政治色がそこまで違うものなんですか?

横田 ぜんぜん違います。これは、1980年代にメディアは中立であるべきだという「フェアネス・ドクトリン」を政府が撤廃したためです。それで台頭したのがFOXです。ここは右派的なチャンネルで、トランプ支持者が見る。CNNやMSNBCは民主党支持者が見る。そういう棲み分けができてしまっています。

 FOXでは、タッカー・カールソンという白人至上主義に近いといわれる人物が番組を持っていて、露骨にトランプを持ち上げたりする。それからショーン・ハニティー。トランプは彼をとても頼りにしていて、ここぞというときに彼の番組に電話出演したりします。それどころか、支援者集会のステージに上げることもある。するとハニティーは「あいつらはフェイクニュースだ」と他のメディアに向かって言うんです。

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支持者たちはさらに右寄りのメディアへ

――FOXがアリゾナ州でバイデン勝利を伝えると、トランプが「FOXはいったい何をやっているんだ!?」と憤るくだりが本書には、あります。

横田 トランプは2020年の大統領選で敗れると、不正選挙だと言い立てました。しかしFOXのニュース番組は、トランプが言うような不正はなかったとジャッジします。するとコアなトランプ支持者はFOXから離れ、もっと右寄りのOANN(ワン・アメリカ・ニュース・ネットワーク)やニュースマックスといった新興メディアに流れていきました。

 つまり、トランプ支持者たちは、トランプに都合のいいことしか言わないメディアを見ようと、より極端なほうへと向かっていったんです。そこでは、自分たちが聞きたいニュースをやっているから。たとえばOANNは、トランプが主張する「日付の改ざんされた郵便投票」や「不正にスーツケースで運び込まれた投票」についてのニュースを流していました。これらは司法長官が「何の根拠もない主張」と否定しますが、そうしたことは「トランプ信者」の耳には入らない。

連邦議事堂襲撃直前のトランプの演説を待つ人 ©横田増生

 大統領選のあとに、支持者がトランプの敗北を認めない「トランプ信者」になる要因には、平気でウソを流すメディアをニュースソースにするようになっていったというのがあるんです。

――ジョン・マケインの敗北宣言などは名演説として知られますが、負けを認めないトランプは敗北宣言をすることもなかったですね。

横田 自分が勝った選挙は認めて、自分が負けた選挙は認めないのは、「お前のものは俺のもの、俺のものも俺のもの」のジャイアンと同じですよね。ジャイアンはアニメのキャラクターだから笑えるけれども、それがアメリカの大統領になったらぜんぜん笑えない話です。『大統領の陰謀』のボブ・ウッドワードがトランプを書いた『RAGE(怒り)』の日本語訳などでは、彼の一人称を「私」にしているけれども、僕の本では「俺」にしました。「俺様エピソード」の「俺」です。このほうがトランプらしいですから。