ユニクロ、アマゾンなどに潜入取材をしてきたジャーナリスト・横田増生氏。新作『「トランプ信者」潜入一年』(小学館)は、共和党の選挙ボランティアとして“潜入”して、1000軒以上の家を戸別訪問してまわり、トランプの支持者集会や連邦議事堂襲撃事件の現場にも入り込んで取材を重ねて書いたものだ。
その横田氏に、生で見たドナルド・トランプ、そして陰謀論を本気で信じるアメリカの人々について話を聞いた。
キリスト教徒にとっては信じられない話ではない
――アメリカでは、Qアノンの陰謀論を信じる人が14%もいるとの調査結果がこの本にあって、たまげました。
横田 「“闇の政府”(ディープ・ステイト)がアメリカ政府を支配していて、民主党の議員やメディア、金融エリートは悪魔を崇拝し、子供の生き血を吸ったりしている。彼らから子供を救うために神から遣わされたのが、トランプだ」なんて話は、日本人ならありえないと思うけれども、キリスト教の彼らからしたら信じられない話ではないんです。
悪魔的な人たちが秘密の会合を開いて、そこで子供を虐待しているといった話は昔からあって、それを現代に上書きしたのがQアノンですから。
トランプ支持者のなかには2020年11月の大統領選の結果が明らかになった後でも、トランプは負けていないと信じている人たちがいます。それをこの本では「トランプ信者」と呼びました。Qアノンはトランプ信者の中心ですね。トランプが言うような不正選挙を本気で信じている。2021年1月6日の連邦議事堂襲撃事件のとき、現地を取材しましたけれども、Qアノンの旗をふっている人たちが大勢いました。
“トランプ信者”はなんでも“闇の政府”や中国共産党のせいにする
――Qアノンかどうかに関わらず、“闇の政府”などの陰謀論を信じている人が次から次へと今回の本に出てきます。
横田 たとえばフロリダから2日もかけて車でワシントンDCの集会に駆けつけた男性がそうでした。前司法長官のビル・バーは不正選挙の証拠はなかったと断言していると問いかけると、「彼も結局は“闇の政府”の一員だと分かっただけだ」と言うわけです。
トランプ支持者は、トランプにとって不利なことを「フェイクニュース」と呼んでいましたが、トランプ信者はなんでもかんでも“闇の政府”や中国共産党のせいにします。お手軽な話といえば、お手軽な話です。