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まさかゼレンスキー大統領警護してるという噂のSASか?

 えっ! ここでも出たか? またアクレディ。とりあえずこの申し込み用紙に記入して、ちょっと会見のぞくだけでも……と、一端部屋に帰って書類仕上げたら、なんとかなるはずやと、エレベーターホールに入ろうとしたらさっきの傭兵軍団に制止された。

「ホテルゲスト(宿泊客)だって!」とカードキーを見せる。

「ノーバディー(だめだ)」

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 なんや、皆英語ができるんや。このあたりがマッチョなロシア兵と違うところか……ってこいつらが着てるのは軍服やない。所属部隊マークのない典型的なPMC(民間軍事会社)ルック、このかっこに英語ということはウクライナ兵やなくてホンマの傭兵か? まさかゼレンスキー大統領を警護してるという噂のSAS(英国陸軍特殊部隊)か? ていうか今日の会見というのはいったい誰が来るんや?

キエフ市北部郊外最前線は5キロ先、ひっきりなしに爆発音と砲声が響く。時折カチュウシャ・ロケット(多連装ロケット弾)の連続着弾音まで届く 撮影・宮嶋茂樹

 とりあえず書類や! 特殊部隊と言い争っても勝てるわけもない。

 シェルター(防空壕)に降りる非常階段を伝い、6階まで駆け上がった。もう還暦過ぎやで。途中2回休んで息切らして部屋へ戻った。

 取材案内は穴があくまで読め――取材要綱は金が埋まっている地図である。洋の東西、有事、平時の違いはあっても同じである。

 ていうかこれ、アクレディの申し込み要領と個別取材の申し込み用紙やんけ。これはじっくり検討せんと……というても、もう会見始まる時間や。アクレディないけど、ダメもとで行くしかないわ。

室内はほぼ満員であったが日本人はワシ一人

 今度はエレベーターで会見場のある2階に降りた。恐れていたあの傭兵軍団の姿はなく、奥からマイクを通じた声が漏れきこえた。廊下に貼られた「会見場」の案内に沿ってすぐにそこにたどり着いた。高校の大教室ぐらいの会議室が会見場になっていた。すでに会見は始まっているらしく、中に入るのに誰にも何も聞かれず、止められもしなかった。

 当たり前だが、ウクライナでの記者会見なんぞ初めてである。それでも形式はどこの国でもおんなじである。

 背景にはウクライナカラーの黄色と青を基調としたウクライナ国旗を描いた横断幕、ひな壇の一番前にスチールカメラマンが地べたに陣取り、その後ろにレポーター(記者)用のいすが並べられ、その後ろが一段高いテレビカメラ用のひな壇になっており、一番後ろはなんやアナウンサー室のようなブースであった。

ウクライナ語、ロシア語、英語を話す司会進行役の女性とロシア軍捕虜 撮影・宮嶋茂樹

 室内は100人ほどの同業者と関係者でほぼ満員であったが日本人はワシ一人であった。日本の会見場と違うのは部屋の周囲にいる完全武装のおにいさん方がするどいガン飛ばしていることと、スチール、ムービー両方ともライトを点けてないことであった。その理由が分からんようでは戦地来たらあかんで。

 ここは敵がすぐそばまで迫り、町の周囲を包囲しようとしている首都のど真ん中である。スピードライトの閃光やライトの点滅が窓から漏れると発砲炎と間違われ、撃たれる恐れがあるからである。

 そしてひな壇には迷彩服姿の軍人が5人すわったまま、そのうちの一人がなにか説明しているようであった。その感じからウクライナ軍による戦況報告かと思った。