「こ、こ、これはどえらい会見に迷いこんだ」
5人のうちの今しゃべっている一番左の軍人の迷彩服の左腕につけられたエンブレムに釘付けになった。
「こ、こ、これはどえらい会見に迷いこんだ」
横縞の白青赤色に鷲の紋章。ロシア軍の……捕虜。
あわててカメラを組み立てる。各々の前には白ボードにフルネーム、年齢が英語とロシア語で記されている。皆19歳から21歳まで、顔には、あどけなさがのこる。
彼らはロシア語で、まず一方的に何かを述べているようであった。背後から英語がかすかに聞こえる。この部屋の後ろに設けられてたのは司会者やなしに同時通訳のための訳者ブースやったのである。
ヘッドセットをつけたスキンヘッドのじいさんが口角泡飛ばしてしゃべり続けており、その前にはエンジニアがちょこまかと動き回っている。これ、世界中に配信しとるんや。
さらによう見たら記者もイヤフォンをしてるのがいる。ワシも貸してほしかったが、こんな会見に紛れ込んだだけでラッキーなのである。
5人全員の懺悔とも言うべき謝罪会見の後、質疑応答に
何を言うてるかは正確には分からんが、皆うつむきかげんで消え入りそうな小声である。
「プレジデント」「プーチン」「プローハ(悪い)」
ぐらいは聞き取れた。正確な訳はのちのプレスリリースを待つしかないが、ようはプーチンが悪いと終始言っているように見えた。
時には涙ぐみ、なかにはふてくされているようにも見えるやつもいるが、無理やり謝罪を要求されたり、薬を飲まされ誘導されてるようにはとても見えなかった。それに半長靴に汚れはついていたし、迷彩服もアイロンがけまではされてないが、洗濯され、こぎれいなまま。これがはじめウクライナ軍の戦況報告に見えた理由である。
目の前には封がきられてない水のペットボトルにグラスが置かれ、5人は緊張してのどが乾くのか遠慮も見せず、飲み干していた。望遠レンズ越しには額や顔面に生傷が確認できたが、それもまあ拷問というより戦闘中のかすり傷程度であろう。もちろんひげも、遅くとも昨夜きれいに剃られ、髪も短くととのえられていた。