原油価格の高騰が続くなか、EV(電気自動車)に対する関心が高まっている。
株式会社ウェブクルーが今年2月に行った「最新の“車購入事情”調査」では、EVに興味を抱く人が7割近くに上っている ほどだ。
一方で、そうした状況に「待った」をかけたのが先日の「電力需給逼迫(ひっぱく)警報」。相次ぐ地震により火力発電所が停止したことと、気温低下による電力需要の高まりを背景に、東京電力・東北電力管内において節電が呼びかけられたことはまだ記憶に新しいだろう。
警報を受け、SNSなどでは「急に節電要請が来るとか日本のEVオワタ…」「こんな状況じゃEV化なんて夢のまた夢」といった投稿が相次いでいる。「電力供給が不足するリスク」に直面し、EVに対する不安が浮き彫りになった形だ。
原発10基分の電力が不足
「EV化と電力不足」という問題については、もちろんこれまでにも多くの指摘があった。
思い出されるのは、トヨタ自動車代表取締役社長・豊田章男氏による「政府の性急なEV化推進」をめぐる発言だ。
2020年12月 、日本自動車工業会会長として記者会見に臨んだ同氏は、「国内に保有される乗用車がすべてEVになった場合」の試算について、以下の通り説明した。
・国内の乗用車がすべてEV化したら、夏の電力使用のピーク時に電力不足になる。
・ピーク時の電力不足の解消には発電能力を10~15%増強しないといけない。
・これは原子力発電で10基、火力発電なら20基に相当する。
原発10基分の電力が不足とはショッキングな試算だ。業界トップの豊田氏による発言には、方々からさまざまな反応があった。「やはり日本でEVを推進するのは無理がある」といった声、あるいは「全部がEVになるのは数十年後の話」など試算の妥当性を疑う声も聞かれた。
そんな豊田氏の発言の背景には、政府によって示された「2030年代半ばまでの電動化」という検討方針がある。突如として「ガソリン車がなくなるのか」と混乱する世間に対し、現状を整理し、EV化にともなう電力供給の課題を示したわけだ。この課題を強調するために、豊田氏は「国内の乗用車がすべてEV化」という極端な仮定を採用したのだろう。