電力供給の逼迫が「EVのリスク」に直結しないワケ
とはいえもちろん、「地震」と「激しい寒暖差」という条件が重なった今回のように、電力需給が逼迫する可能性はある。このような状況を懸念して、SNSなどには「地震の多い日本でEVは普及しない」といった声が寄せられているわけだ。私も実際、「これだからEVは怖い」などと思ったりもした。
しかし、「電力需給が逼迫するケースがあるからEVは危険だ」というのは一見わかりやすいようで、要領を得ないところがある。
まず考えられるのは、「電力が足りていないのに、さらに負荷をかけるEVを推進するのは間違っている」という趣旨である。しかしこの点については、先に見たようにEV化が非現実的なペースで進んだとしても、通常時において電力状況を大きく左右する要因には当面ならないだろう。
あるいは、「電力需給が逼迫しているのに、EVを充電していたらさらに負荷がかかってしまう」という観点もありうる。だがこの点についても、充電が多く行われる時間帯が電力消費のピークと重なる可能性は考えにくい。ガソリン車と異なり、EVは自宅に充電設備を設置するのが一般的であり、充電が行われるのは夜間が中心になるためだ。
それでは問題は、「電力供給が絶たれた状況でEVは動けなくなる」という点にあるのだろうか。もちろん充電はできなくなるが、むしろバッテリー容量が残されていれば、非常用電源として使えるというメリットがある。
電力を車両側から住宅側に供給する「V2Hシステム」があれば、残量次第で数日分の家庭用電力を賄うこともできるだろう。たとえば日産のリーフe+ は、フル充電時で約4日分の電力を供給できると謳っている。停電が長引く被災地域への救援にEV車両が持ち出され、蓄電池として活用された例もあり、非常時の備えとして期待できるわけである。
充電設備などのインフラ面や充電時間、購入コストといった現実的な問題も当然あるにせよ、「EV」=「非常時に弱い」という認識は正確ではないだろう。EVの蓄電池としての有用性は、むしろ災害大国であるからこそ見直したいメリットだ。