料理というより実験
電子レンジの機種も家庭によって違い、機種が違えば性能も違うわけです。レシピにある時間のとおりにやってみたけれど芯が残っておいしくありません、なんていうことが起こらないように、確かめなければいけないことは山のようにあります。もはや料理の試作というより、実験の域です。
何より、私は作り慣れているけれど、初めて作る人でも同じように調理できて、おいしそうに盛り付けできるような手順を考えなければなりません。例えば、野菜の切り方にしても、慣れない人がざっくり切った太さでもおいしい料理になるレシピを考えます。
さらに、プロの料理家としてはオリジナリティも必要です。おいしいだけでなく、「栗原はるみらしい」「栗原はるみだから考え付いたのね」ということをほのかにでも感じていただけるものにしたいのです。
ですから、土日の休みもなく私はキッチンで挌闘し続けました。タフな仕事になることはわかっていましたから、当初から100号で区切りを付けようと決めて、それが達成される日を心待ちにしていたんです。そして無事に達成した暁には、夫といろいろなところへ出かけようと約束していました。夫は九州を周遊する列車「ななつ星」やヨーロッパの船旅のパンフレットを取り寄せ、一緒に旅をするのを楽しみにしていたのに、100号達成の前に独り、旅立ってしまいました。
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14歳年上の夫・栗原玲児さんは元キャスター。人気番組「木島則夫モーニングショー」(旧NET)のサブMC、「スター千一夜」(フジテレビ)のインタビュアーなど幅広く活躍した。はるみさんが仕事を始めてからは、毎朝玲児さんが作る朝食を一緒にとることから1日がスタートした。
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46年間連れ添った夫がいなくなってしまった
46年間連れ添った夫がいなくなってしまった。その喪失感は、想像をはるかに超えていました。朝からメソメソ泣いていましたし、料理さえもしなくなりました。それを夫と一緒に食べていたシーンがよみがえってくるのが、あまりにも辛いからです。