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2016年に発表した震災犠牲者の行動記録マップとの共通点

――ウクライナに残って現況を伝えようという方からのバトンを受け継ぐのは、渡邉さんにとってもかなり重みのあることではないでしょうか。

ウクライナの街 ©️iStock.com

渡邉 身の危険を感じながらも、現状を伝えようとしている方が現実にいらっしゃいます。それをやめろという権利は私にはありません。

 また、脱出したくても、逃げる手段がない人がたくさんいるとも聞きます。現時点においては、なんらかの権力による検閲・逮捕といった危険とは距離を取っていられる日本の私たちにできることは、そうした現地の方々の懸命な声を、わかりやすくまとめ、一人でも多くの人に届けることだと思います。

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 2016年、岩手日報社とのコラボレーションで「震災犠牲者の行動記録マップ『忘れない』」を作成しました。昨年、東日本大震災から10周年を迎えたことを契機として、『忘れない』において犠牲者の方々の氏名を載せて公開しました。このことは、今回のウクライナの取り組みに通じるものがあります。

震災犠牲者の行動記録マップ「忘れない」
震災犠牲者の氏名と移動軌跡を表現している

 

 氏名を表示することにより、単なる「データ」ではなく、その向こうに亡くなられた方々の存在を感じられるようになりました。

 衛星画像は、たとえて言えば「神様の視点」でみた地球です。衛星画像から「人の営み」を感じることは困難です。でも、現地の方が命がけで作成した3Dデータと組み合わせてデジタルマップに載せることで「人の匂い」が加わります。このことによって、ウクライナの地で起きていることを、日本に住む私たち、そして世界中の人々が「自分ごと」として考えるきっかけを作れるのではないでしょうか。

「後世の検証のために」という使命感

――しかし、第二次世界大戦の記録や、東日本大震災の記録と異なり、ウクライナ侵攻は現在進行形のできごとです。

渡邉 そうですね。作業者である私たちには心の負担が掛かっています。覚悟が必要です。それでも、私たちがこの作業をやめようとしないのは、技術を持つ私たちには、ウクライナの状況を、リアルタイムに共有する使命があると感じているからです。

 さらに、この戦争がどうなるのかはまだ誰にも分かりませんが、10年後、あるいは50年や100年ののち、この戦争を人々が検証するために活用してもらうためです。今の時代を生きており、たまたま専門技術を持つ私たちが、それをやらねばならないと思います。

――ロシア軍の侵攻が開始されて1ヵ月が経過しました。現在、どれ程度の量のデータを公開されたのでしょうか。

渡邉 3Dデータ、360度パノラマと衛星画像をあわせて約140点を公開しています。1日だいたい4点ほど追加してきたことになります。

 こうしたデジタルマップが、戦況を大きく動かす、あるいは戦争を終わらせることができるとは限りません。しかし、各々ができることを続け、声を発し続けることが大事です。今後も、少なくともこの戦争が終わるまでは続けるつもりです。

(追記:ウクライナ・ボロジャンカのドローン映像を撮影し、行方不明となっていたMaks Levin氏が、キーウで亡くなっていたことが分かった。Maks Levin氏のドローン映像は、stim3on氏が3D化し、そのデータが「3D data & 360 panoramas of Ukraine」に使用されている。2022.04.05)