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正直な話、上島さんから電話が嫌でした

 正直な話、当時は上島さんから電話がかかってくるのが嫌でした。なぜかといえば、絶対に遅くなるからです。「何時に帰れるかわからない」という毎日を送っていた僕でしたが、志村さんと上島さんが合流した日は帰宅時間が確定します。飲み終わるのは明け方ですから、僕がアパートに帰るのは朝です。

 上島さんから連絡が来るのは、お酒を飲むときだけではありません。たとえば地方ロケがあるときは「今からロケに行ってきます」という電話が志村さんに入ります。帰ったら帰ったで「今、羽田に着きました」という電話が入る。「お前は俺の女か!」と志村さんは突っ込んでいましたが、その顔は嬉しそうでした。

「うるせーよ!」ツッコまれると嬉しそうだった志村さん

 その後、志村さんはプライベートだけでなく仕事でも上島さん、いやダチョウ倶楽部さんとほとんど一緒でした。

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 生意気なことを言うと、ダチョウさんと出会えたのは志村さんにとってものすごくラッキーなことだったと思います。僕の知るかぎり、それまで志村さんに遠慮なくツッコミを入れるのは、ダウンタウンの浜田雅功さんだけでした。臆することなく突っ込むダチョウさんと出会ったことで、志村さんはさらに輝いたと思うのです。

 とりわけ上島さんは、コントだけでなくプライベートでも「うるせーよ!」と志村さんに軽口を叩いていました。志村さんもまた嬉しそうに突っ込み返していました。

志村けんさん ©️文藝春秋

 ツッコミといえば、志村さんは肥後克広さんのツッコミに全幅の信頼を置いていました。曰く、「リーダー(肥後さんのこと)は、どんな役をやってもそういう人に見えるからいい」「ひとみばあさんへのツッコミは一番うまい」などなど。

ダチョウさんとの出会いで師匠のプライベートも充実した

 コントでは抜群のツッコミを見せる肥後さんですが、普段は言い間違いがひどい。あるとき「げそさんは何人きょうだい?」と聞かれたので「3人です」と答えたら、「長女?」と聞かれました(まさか僕を女性だと思っていたとは……)。一緒に地方ロケに行ったとき、「ホテルのテイクアウトは何時だっけ?」と聞かれたこともあります(まさかホテルを持って帰るつもりだとは……)。

 上島さん、肥後さんとは一線を画しているのが寺門ジモンさんです。とにかく自然や食べ物に対する愛がすごい。たとえば焼肉を一緒に食べているとき、

「いま!」

 と、鉄板からお肉を取るように指示されます。話に夢中になったりして少しでも焼きすぎてしまうと、

「肉が泣いている」

 と怒られます。そんなやりとりを、志村さんはいつも笑って見ていました。

志村けんさん ©️文藝春秋

 ダチョウさんと出会ったことで、志村さんはプライベートもより充実したのではないかと、僕には思えます。そして僕自身にとっても、ダチョウさんと出会えたのは本当にありがたいことでした。(#3に続く)

我が師・志村けん 僕が「笑いの王様」から学んだこと

乾き亭 げそ太郎

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2021年2月26日 発売