「いや、やっぱり考えていませんでしたね。BCでとりあえずやりたいことをやって、結果プロ(NPB)に行けたらいいなって。それよりも自分のなかにある『こうすればいいんじゃないか?』という部分を全部潰してやってみて野球に区切りをつけようという考えの方が強かったですね」
この冷静な思考。まるで仮説を立て実験を繰り返す研究者である。学ぶこと、考察することを好む笠井さんの人間性が浮かび上がる。
BCリーグでは、結果35試合に登板し、防御率2.43を記録。これまでとは違うレベルの高い実戦を経ることで球速は150キロを超えていた。
もし、あのまま早大で野球をつづけていたら?
そして2016年10月20日に開催されたドラフト会議。笠井さんはDeNAから育成1巡目で指名を受ける。同期は現キャプテンの佐野恵太やサウスポーの濵口遥大だ。
「指名された時ですか? やっぱり信じられなかったですよね。掛かるかもしれないとは聞いていましたが、名前を呼ばれて安心したのを覚えています」
先ほど笠井さんは「その時やりたいことを自分で選んできた」と語っていたが、紆余曲折の野球人生を経て、狭き門であるNPBにたどり着いた。もし、あのまま早大で野球をつづけていたら、と考えることはないのだろうか。
「思うことはありますけど、結局はわからないことですよね。もしかしたら育成じゃなく支配下で指名を受けていたかもしれませんし、逆に2、3年で野球を見たくないという状況になっていたかもしれません」
そう考えると、やはり自分の選択は間違っていなかった?
「そうですね。間違いではなかったと思います」
力強く笠井さんは言った。やりたいことを取捨選択して切り拓いていったプロへの、誰も歩んだことのない道なき道。笠井さんの数奇な人生は、この後もつづいていく。
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異色の経歴を歩んできた笠井さん。後編では、そんな笠井さんが現在なぜ経理部にたどり着いたのか。そして、今だからこそ気づけた「結果を残すプロたちの共通点」について聞いていく。