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犬捨て山で生まれた雑種「まるこ」がセラピードッグになるまで

「いやし犬まるこ お年よりによりそう犬の物語」#2

2017/12/15

「ほえない、かまない、うならない」

 ドッグトレーナーの安隨尚之さんはセラピードッグの素質について、「ほえない、かまない、うならない。この3つができることが最初の条件」という。

「それから、なにより人が好きなことが重要です」

 ブリーダー(繁殖家)から来た犬だけではなく、保健所や動物愛護センターに連れていかれた殺処分犬を育成して、この試験を受けられるまでにしようとしているところが、日本レスキュー協会のユニークなアイデアだ。阪神大震災で災害救助犬がうまく活用できなかった苦い思い出をきっかけに1995年に協会開設。それからこっち、約300頭のセラピードッグ候補犬から、実際に適性を認められ、資格を得たのは30頭。なかなかの難関だ。

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 殺処分犬のなかには、そもそもの“捨てられる原因”として、ほえ癖、かみ癖、うなり癖を持つ犬がいる。そういう犬は、残念ながらセラピードッグにはむかない。

「人は敵ではない」「危害を加えない」「落ち着いてともに過ごせば、ごはんも散歩もおうちもある日々を送れる」ということを教え、馴致訓練を経て愛玩犬になる道を進む。

 中には、セラピードッグ訓練生のステイタスからリタイアして愛玩犬コースになる犬だっている。

 適性テストのチェック項目を具体的に挙げると、

・エサをあげたときにてのひらや指先に犬の歯が当たらない。

・知らない人が来たときや、突然大きな音がしたときに、おびえたり騒いだりしない。

・知らない犬と出合ったときにパニックにならない。

・初めての場所でも落ち着いていられる。

 などが審査の対象になる。

©前川政明

 まるこは、おとなしい犬でおっとりしていた。よく観察してから行動した。これは彼女の個性。

 人の目の高さから見れば、犬はどれも「犬」だけれど、犬が何頭もいれば、すべて性格が違うのである。

 犬種によっても特徴があり、ご主人様命の“忠犬度”が高い、柴犬や秋田犬などはあまり向かず、レトリバーやプードルなど外国から来た種のほうが向く。面白いもので、兄弟で、片方が適性あり、片方が適性なしになることもある。