5月に結婚され、幸せいっぱいの阿川佐和子さん。父・阿川弘之さんの介護を数年にわたり続けてきました。同世代の朝井まかてさんも、介護を担う日々。近作の『銀の猫』は江戸時代の介護事情をテーマにした人間ドラマであり、創作の過程で実生活に役立つ知恵に出会うことが多々あったとのことです。高齢化の進む現代では、介護は誰しもが身近にある課題。乗り切りのコツを、お2人から伺います。

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『銀の猫』(朝井まかて 著)

阿川 介護をテーマにした小説を書いた二人に、対談をして欲しいとの編集部からの依頼でお目にかかることになりました。実は私たちにはもう一つ共通点があります。それは、私たち自身が介護を経験していること。  

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 私は父の介護に続けて、母の介護も始まりまして、いまも進行中です。今日は、愚痴を含めていろいろ聞いていただこうと思って、楽しみにしてきました。  

朝井 私もお目にかかれて嬉しいです。私の場合は夫の母を見送りました。いまは義父が老人ホームで暮らし、私の両親は何とか二人で頑張って自立生活を維持してくれています。でも何かと、事件に事欠かない日々ではあります(笑)。  

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 阿川佐和子氏は、父の阿川弘之氏との思い出と介護の日々を綴った『強父論』を昨年出版しベストセラーとなった。昨秋からは仕事の転機と親の介護が重なった四十歳の女性をユーモラスに描く小説「ことことこーこ」を山陽新聞など地方紙で連載中だ。  

 朝井まかて氏は、今年、江戸時代の介護にスポットをあてた小説『銀の猫』を刊行。主人公がさまざまな奉公先で高齢者の介護をし、彼らの人生や家族の人間模様に触れていく物語だが、その連載中に夫の母の介護にかかわり、看取っている。  

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阿川 『銀の猫』を面白く拝読しました。私は昔から、「江戸時代は幼児の死亡率が高いので、平均年齢は低いけれど、案外、高齢者が多かったんじゃないか?」と、ちょっとした疑問を持っていたんですよ。この小説では、江戸時代の老人たちの姿がいきいきと描かれていて、これまでの疑問が氷解した思いでした。

阿川佐和子さん。©文藝春秋 

朝井 ありがとうございます。江戸時代は泰平が長く続きましたから、当時の世界事情からみても安定的な長寿社会だったと言えると思います。たとえば武士は一生奉公が基本で、主君の許しを得ないと引退できませんから、七十、八十でも現役の老臣が珍しくなかったようです。  

阿川 いまのように定年が制度化されていなかったんですね。主人公のお咲は「介抱人」という、いまで言うヘルパーさんのような仕事をしています。こんな仕事が江戸時代にすでにあったと初めて知りました。  

朝井 「介抱人」という職業そのものは、私のフィクションなんです。ただ、当時の資料を調べていると、女中や下男などの奉公人が介護の場面で重要な役割を果たしていました。そこに発想を得たんです。  

阿川 でも武家では、家を継いだ当主、つまり息子が介護をすることが、最良とされていたそうですね。  

朝井 忠孝の考えが行き渡っていたからでしょうが、「家」を継ぐこと、つまりその財産を受け継ぐことと老親の世話は、いわばセットでした。だから介護の主担当は、一家の当主だったんです。それを家族や奉公人がサポートする。  

阿川 江戸時代は男性がちゃんと介護をやっていたとは……。武士は「お前、やりなさい」とお嫁さんや使用人に命令しているのかと思ったら案外、男女が平等だったんですね。