毎日毎日、名前と住所を練習した
最後にご紹介するのは言語聴覚療法。真っ先に取り組んだのは、自分の名前と住所です。これがわからないと、日常生活が送れないからでしょうね。
ところがこれがとても難しい。自分の名前である「清水ちなみ」が、まるで前世の記憶のように全然ピンときません。
私は毎日毎日、名前と住所を練習しました。その後、数字の1から10まで、さらに生年月日と続いて、リハビリ開始から2週間目に、初めて宿題が出ました。絵の下に3つの単語が並んでいて、正しい答えを自分で書きます。
たとえば雨が降っている絵の下に「晴れ 雨 雪」という選択肢があれば、私は「雨」と書かなくてはなりません。
こんな簡単な問題なのに、私が正解できたのは5問中2問。正答率はたったの40%でした。
馬を牛と書いたり、梅を松と書いたり。答え合わせの時、先生はひらがなで「うま」「うめ」など、毎回ふりがなを振ってくれました。
翌日の正解は6問中3問、翌々日は全問正解、でも、その次の日の正解はゼロ。前途多難ですが、私は大学生の時に、塾の講師や家庭教師のアルバイトをしていたので、先生が優秀かそうじゃないかはなんとなくわかります。
T病院の言語の先生は、私の限られた能力をめいっぱい引きだそうとしてくれる優秀な先生でした。
「ずいぶん、進歩したね!」
2月初めの週末に自宅に戻った時の録音テープが残っています。
旦那 おっ、今回は漢字を読む練習の宿題をもらってきたんだね。「口」とか「桃」とか「雪」とか。早速問題を出そうか。これはなんて読むのかな?
清水 くち。
旦那 すごいじゃない。これは?
清水 とも。
旦那 惜しい。ちょっと違う。
清水 もも。
旦那 素晴らしいね。これは?
清水 す……、わ? みえ、みずじゃなくて。
旦那 ゆき、ですね。ゆき。
清水 き、あ……。
旦那 ゆ。
清水 う~き。
旦那 ゆ、だよ。
清水 う~き。
旦那 ゆ、き。
清水 ゆ、く。
旦那 ゆ・き。
清水 ゆ・き。
旦那 そう。ずいぶん、進歩したね!