昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

頭の中にある言葉と、口から出てくる言葉がぜんぜん違う…左脳の4分の1が壊死、失語症になった私を待っていた「6カ月の壁」

「OL委員会」の人気コラムニストが忽然と姿を消した理由#15

2022/04/14

 脳疾患には「6カ月の壁」というものがある。発症から6カ月を過ぎれば、以後、大きな回復は望めないというのが定説なのだ。だから入院は90日間しか認められなかった。(全16回の15回目/#1#2#3#4#5#6#7#8#9#10#11#12#13#14より続く)

清水ちなみさん ©佐藤亘/文藝春秋

◆ ◆ ◆

言葉数はどんどん増えていったが、意思疎通は難しい

 2009年12月、くも膜下出血の手術を受けた私は、左脳の4分の1が壊死して重い失語症患者になり、その上、右手や右足の機能にも障害が出ました。

 でも、集中治療室から一般病棟に移った頃には、自分は幸運だったと感じ始めました。

 脳卒中になると、下半身不随になる人が多いのですが、幸い、私の右足の障害は軽く、歩くことができたのです。食事もおかゆからうどんになり、少しずつおいしく感じられるようになっていきました。

 記録魔の旦那が、2010年の正月を自宅で過ごした私との会話を録音していたので、ご紹介しましょう。

旦那 最近、あなたの口から出てくる語彙がどんどん増えているのは素晴らしいね。でもまだ、頭の中にある単語と、実際に口から出てくる単語がほとんど一致してない。

 あんまり考えないでしゃべってると、コウスケ(息子の名前。仮名)とかチヒロ(娘の名前。仮名)とかがポロッと出てくるけど、「おっ、すごいじゃん、もう一回言ってみて」と俺に言われても出てこない。そこらへんがおもしろい。脳の使う箇所が違うんだろうね。

最新話は発売中の「週刊文春WOMAN2022年春号」に掲載中

 じゃあちょっとインタビューしましょう。いま、あなたの目の前でしゃべってるこの人は誰ですか?

清水 おせいさん。

旦那 おせいさんじゃないよ(笑)。

清水 おねえさん。

旦那 おねえさんでもない。

清水 うーんと、違うもの。

旦那 ハハハ。違うものっていうのはいいね。

 言葉数はどんどん増えていきましたが、私の話はますます訳がわからなくなっていますね。

 この頃になると、私は、相手が何を言っているかを大体理解できるようになりました。頭には言葉も浮かんでいます。でも、実際に口から出てくる言葉は全然違っているので、意思疎通が難しいのです。