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 それでも家族と話すのはとても楽しく、週末に自宅に帰るのを、私は心待ちにしていました。

脳疾患の「6カ月の壁」

 自宅近くの大学病院から、クルマで50分ほどの距離にあるK市のT病院に転院したのは、2010年1月半ばのこと。くも膜下出血の手術から1カ月半が過ぎた頃です(当時の私には時間の感覚はほとんどありません)。ここは全国でも指折りの素晴らしいリハビリテーション専門病院で、施設も体制も充実しているので、入院できたのはラッキーでした。

 ただし、入院は90日間限定。リハビリを必要とする患者は多く、病床数にも、リハビリを行う言語聴覚士、理学療法士の人数にも限りがあるからです。脳疾患には「6カ月の壁」というものがあり、発症から6カ月を過ぎれば、以後、大きな回復は望めないというのが定説です。

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 回復の程度がどうであれ、4月の半ばの退院は最初から決まっています。限られた期間に、できる限り多くのリハビリ訓練を行い、日常生活への復帰を目指すのです。

 初めて病院を訪れた日、私はトイレに行きたくなり、ひとりで女子トイレに入ってみました。でも、用を足したあと、レバーの位置がわからず、結局そのまま出てきてしまって、申し訳ないことをしました。

右手を使うのは脳梗塞後、初めて

 主治医は感じのいい女医さん。私がもらったカルテには、私の病名は、くも膜下出血、破裂脳動脈瘤、脳梗塞とありました。症状は右上下肢不全麻痺、失語症と書いてあるのですが、当時の私にはもちろん読めません。

 それどころか、初めて自分の病室に案内された時、ベッドに貼られている自分の名前と主治医の先生の名前さえ読めませんでした。私にわかるのは、これは漢字であって数字ではないということ。そして、自分にはまったく理解できないということくらいです。

 夕方には、担当スタッフ(主治医の先生、看護師、理学療法士、言語聴覚士、作業療法士)の全員が集合してくれました。皆さんにこやかで感じのいい方ばかり。とても安心しました。