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「特別治療食」が口に合わず

 食事が終わると、看護師さんが患者ひとりひとりに薬を渡します。何せ脳疾患なので、患者まかせにはできないということでしょう。

 もし、私が失語症でなければ、配る薬を間違えないためのさまざまな工夫について興味津々で質問するところですが、残念ながら当時の私にその能力はなく、微笑することしかできませんでした。

 入院中の食事は、お医者さんの指示で、年齢、状態、病状などを考慮して決められています。大きな病院なので、給食も大変です。

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「一般食」と「特別治療食」に分かれているのですが、高血圧の私は塩分を減らした「特別治療食」で、ご想像通り、あまりおいしくありません。

 隣のベッドの奥様が、持参した海苔の佃煮を食べているのがうらやましかったので、「こういうものを食べたい」と身振り手振りで主治医の先生に訴えましたが、「身体によくないからダメ」と言われてしまいました。食事が口に合わなかった私は、入院中、どんどん痩せていきました。

言語の練習プリント。絵の下に「足」「猫」などと単語が書かれているのを覚えた

 食事が終わると病室に戻り、順番に歯磨きや洗顔をします。室内には洗面台とトイレがあり、車椅子でも使えるように広々しています。

 リハビリが始まるのは午前9時。

 ラッキーなことに、私は9時の針の位置だけはわかっていました。

 9時少し前になると、エレベーターの近くにぞろぞろ車椅子が集まってきます。看護師さんは人数を確認した上で、エレベーターで1階にあるリハビリテーション科まで送り届けてくれます。

 2、3人の看護師さんと4、5台の車椅子、そして、歩けるけど、自分がどこにいるのかよくわからない私という体制で、リハビリテーション科まで移動します。

 私が受けるのは理学療法、作業療法、言語聴覚療法の3つの訓練全部です。時間はそれぞれ40分ずつですが、それでも結構、忙しかった。私がどんな訓練を受けたかを、覚えている限り書いておきましょう。

※最新話は発売中の「週刊文春WOMAN 2022春号」に掲載中